基礎体力研究所

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第45回談話会:2012年7月18日

「保健体育教師が授業者としての教師観を形成することの意義」
…須甲理生

基礎体力研究所の第45回談話会が7月18日に行われました。

今回は、「体育科教育学」がご専門の須甲理生先生に「保健体育教師が授業者としての教師観を形成することの意義」と題してとても興味深い問題をお話しして頂きました。
現在、団塊世代の教員の退職に伴う大量採用時代が到来し、ベテラン教員から若手教員への指導や伝統的な教師文化の衰退が起きています。そこで、免許更新制度や教職実践演習の必修化などの教員養成と研修に関わる教員制度の改革が急速に整備されています。また、学習指導要領の改訂に伴い、新たな学力とアカウンタビリティー(成果主義)が問われ「体育における学力」=「体力」ではなく、これからは体育的学力を体育授業の中で確実に保証していくことが求められています。こうした背景から、教師の力量形成が求められています。
中等教育段階における体育授業は、「汗のかかない体育授業」「ボールを放りいれるだけの体育教師」と揶揄されてしまう問題があります。我が国における中等教育段階の体育授業の実態としても、授業研究として中学・高校に入っていくこと自体が難しく、様々な研究者が様々な場面において主観的に批判しているに過ぎないそうです。また、体育教師においては体育授業と運動部活動という役割の二重性において、体育授業という本来的な体育教師の役割を果たすことが困難であるという問題があります。このような保健体育教師の運動部活動志向は、約40年前から明らかにされており、アメリカ・イギリス・オーストラリアにおいても指摘されているそうです。
須甲先生は、体育教師においても授業者としての教師観をしっかり有するべきだと考えておられます。保健体育教師は、授業者としての教師観(継続的な授業改善や授業の力量形成を志向する構え)を形成する必要があるということです。では、どのように教師観を形成していくのか。そこで須甲先生は、授業者としての教師観を形成するために熟練保健体育教師における授業者としての教師観の形成過程を研究されました。
実際に授業者としての教師観の形成を経験し、その後も優れた体育授業実践を行うとともに、積極的に授業改善や自身の授業力量形成に取り組んできている熟練体育教師を対象とし、仮説生成的な質的研究を行いました。結果、授業者としての教師観を形成していくためには、①自らの教師観を揺さぶる授業における生徒の具体的反応に遭遇すること②その反応から自身の授業実践を内省すること③他者との関わりや客観的ツールによって、内省が促進されること④授業における生徒の具体的な反応を内省し、授業改善や授業力量を形成していくための学び方を確立することの4点が明らかとなりました。また、授業者としての教師観を形成する意義として、教師観を形成した後に、授業観(授業の進め方、目標像についての考え方)や指導観(指導の仕方に関する考え方)、学習者観(授業中の学習者はどのような存在か、授業で変容可能である存在なのかという点についての考え方)が形成されていくと同時に、知識や技術も形成されていくそうです。
今後の課題としては、現職教育プログラムにも大学が介入していく必要があるだろうと考えられておられるそうです。
当日は様々な分野の先生方が参加して下さり、幅広く活発な議論が行われました。とても興味深いお話をして下さった須甲先生ならびにご参加下さいました先生・職員・学生の皆様ありがとうございました。

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