基礎体力研究所

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2017年度セミナー

「皮膚血管からみた微小血管機能評価:オレゴン大学とオタワ大学での研究」

藤井先生

筑波大学体育系
藤井 直人 先生

2017年度の基礎体力研究所セミナーは,2017年7月4日に筑波大学の藤井直人先生を講師にお迎えし,「皮膚血管からみた微小血管機能評価:オレゴン大学とオタワ大学での研究」というテーマで開催された.藤井先生は,皮膚血管拡張のメカニズムとそのメカニズムに対する喫煙や加齢の影響などについて研究を進めておられることから,本セミナーでは,「皮膚血管などの微小循環機能」の研究成果を中心に,アメリカとカナダの大学における留学生活についてのお話を交えてご紹介いただいた.以下にご講演の概要を報告する.

はじめに

藤井先生は,博士の学位取得後,日本学術振興会の特別研究員としてアメリカのオレゴン大学に2年,その後カナダのオタワ大学に3年間の留学をご経験されており,これらの留学経験を含め,海外での研究活動や現在までの研究成果についてご紹介していただいた.さらに,低侵襲で皮膚血管の血流量調節を評価することのできるマイクロダイアリシス法のテクニック取得までの過程等についてもご説明された.

マイクロダイアリシスを用いた皮膚血管血流測定

まず初めに,皮膚の毛細血管に血管を拡張させる刺激を加えた場合,高血圧の人ほど皮膚の血管拡張が小さくなることから高血圧によって皮膚血管拡張機能が低下しているというデータを紹介された.この理由として微小循環の機能低下と循環疾患との関係性が指摘されていること,微小循環が悪くなることで,高血圧や循環疾患を引き起こす最初のステップになっていることから生体での皮膚の循環を評価する必要があるとのことだった.また,皮膚の毛細血管は表面に出ているためアクセスしやすく,侵襲的な方法を用いた場合でも,再生が早く安全面のリスクも最小限に抑えられること,マイクロダイアリシスという手法を用いることで循環のメカニズムの評価が可能であることを説明された.実際にマイクロダイアリシスを皮下挿入している際の映像とマイクロダイアリシス挿入下における投薬反応の模式図により測定の手順と概要を説明してくださり,非常にわかり易く解説していただいた.このマイクロダイアリシスを用いて薬物を投与し、同時にレーザドップラーによる皮膚血流量を測定することで皮膚血管拡張のメカニズムを知ることが可能となるとのことだった.他にも,薬物投与時の血管拡張作用を測定する方法は存在するものの,いずれも長時間にわたる薬物投与が困難であり,その測定方法自体が感覚神経を刺激してしまうことで血管拡張に作用してしまう可能性があるとのことだった.マイクロダイアリシスは,ファイバーが高価であることや投薬した薬物の濃度が不明な点があるものの,ファイバー挿入後にリカバリー期間を設けることでファイバー挿入に伴う急性の副次作用 (急性の皮膚の赤みなど)を抑え,長時間の薬物投与が可能であるという面でのメリットが大きいということも説明された.

喫煙が心血管に及ぼす影響

皮膚血管抵抗の指標でみると,アセチルコリンを投与した場合,非喫煙者では皮膚血管が拡張されるのに対して,喫煙者では血管拡張の反応がみられないという先行研究が紹介され,喫煙によって皮膚の血管内皮機能が低下するということはわかっているが,どういうメカニズムが働いているのかは不明であったことから,その要因として一酸化窒素合成酵素(NOS)とシクロオキシナーゼが関与するという仮説をもとに実験をされたとのことであった.藤井先生の実験結果によると,1名の代表例から,若年喫煙者ではマイクロダイアリシスを介してアセチルコリンを投与すると非喫煙者では血管拡張がみられたのに対して,喫煙者では反応はあるが,拡張の程度が低いという.平均値のデータからも喫煙によってNOS由来の皮膚血管拡張反応が低下すること,さらにシクロオキシナーゼ由来の血管拡張反応も低下したことから,喫煙者では,血管内皮由来の皮膚血管拡張反応の低下には,NOSとシクロオキシナーゼが関与しているとのことであった.この結果から,皮膚をはじめとした微小循環の機能低下が循環疾患を引き起こす可能性があるという考えをもとにすると,喫煙によってNOSやシクロオキシナーゼの機能が低下するという状況を改善できれば,微小循環の機能が回復し,心疾患リスクを改善できるかもしれないという展望を持っているとのことであった.もう一つの研究では,喫煙者の血管拡張作用にはカルシウム依存性カリウムチャネルが関与している可能性を指摘され,アセチルコリンによる皮膚血管拡張反応に対するカルシウム依存性カリウムチャネルの貢献度が慢性喫煙によって増加するという仮説の下にデータの紹介がされた.そこでは,喫煙者ではコントロール群よりもカルシウム依存性カリウムチャネルによる血管拡張反応の寄与率がかなり高く,その寄与率は30%程度高く,喫煙者ではカルシウム依存性カリウムチャネルにより血管拡張機能が補われている可能性があると解説されていた.

加齢による微小血管機能の低下と循環器疾患リスク

続いてオタワ大学に移られた際の研究成果についてお話を頂いた.若年者と高齢者を対象とした実験により,加齢が微小血管機能に及ぼす影響を明らかにすることで,いかに皮膚血管機能を改善し,循環器疾患のリスクを低下させることが出来るかというテーマのもと取得されたデータをご紹介された.慢性喫煙による結果と同様に加齢によってシクロオキシナーゼの機能低下がみられることはわかっているが,シクロオキシナーゼからのプロスタノイド産生量が低下するのか,もしくはプロスタノイドに対する血管反応性が低下するのかという課題があるとのことだった.実験結果ではプロスタグランディンE1とE2による皮膚血管拡張反応は高齢者と若年者と同程度であったが,メカニズム的には若年者ではプロスタグランディンE1による皮膚血管拡張反応にNOSが部分的に関与すること,さらに高齢者ではプロスタグランディンE2によるに皮膚血管拡張反応にNOSが部分的に関与すると解説されていた.

おわりに

以上のように,藤井先生は,皮膚血管をはじめとした微小血管機能の低下と循環器疾患リスクの関連性についてマイクロダイアリシスを用いて評価された研究成果を非常にきめ細かく解説してくださった.さらに,藤井先生は2つの大学にご留学された際のラボによる研究環境や研究スタイルの違いを含めてご紹介くださり,研究室の環境や教授の研究スタイルで研究環境が異なるという点も非常に興味深く感じた.参加者の方からも多くのご質問と活発な議論が繰り広げられた点においても非常に興味深い内容であったと感じた.最後に,ご講演戴きました藤井先生とセミナーにご参加された参加者の皆様に心より感謝いたします.
(文責:手島貴範)