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教員系
高校・体育教師

指田 裕加子(2009年度・スポーツ科学専攻卒)

都立定時制高校教員


実は先生は嫌いだった…

指田さんは高校の時から体育教師を目指していました。大学時代もその気持ちは変わらず、東京都の教員採用試験を受けて合格しました。念願の教師になって5年がたち、今どんな風に働いているのか聞いてみました。
<2016.02収録>

どうして教員になろうと思ったの?

高校までずっとバスケットをやっていたんですよ。運動を教えるのも好きだったし、将来バスケット部の指導をしたくて。でも実は私、高校の時まで先生がずっと嫌いだったんです。私の眼には、人の話も聞かないで怒ったり、自分のことしか考えていていないように見えてしまって。
ただ中学のバスケット部の先生にはすごくお世話になりました。先生の奥さんもコーチで来てくれて、その人は生徒と一緒になって喜んだり、泣きながら怒ってくれるような人で、「私もこんな風になりたい。バスケット部を指導するなら教員になるのが近道だ。」と思いました。

大学時代はどんな風に過ごしていました?

大学では部活はやっていませんが、入学して5月ぐらいに、高校時代のバスケット部の恩師から「指導に来てくれないか。」と言われて、ときどき母校のバスケット部にコーチアシスタントとして行くようになりました。恩師も私が教員志望だと知って、呼んでくれたんじゃないかな。放課後や土日に、週3、4回は行っていました。それ以外にアルバイトもやっていました。
教員になるつもりだったので授業はまじめに受けていました。コーチング演習や保健とか...。教員採用試験の準備は3年生までは特にしていません。3年生の2月に教員養成講座を受けました。ところがその頃になって反抗期がきたのか(笑)、「自分、ほんとに教員でいいのか...?」なんて悩み始めたんですよ。

教員以外の道もあるのではと?

それで「就活もしてみよう。」と思いました。広告デザイン会社とか、ネット系のアパレルとか、わりとオシャレ系を狙ってエントリーシートを出してみたんですけど、もともと志望度が高くないので全く引っかからず...。
4月くらいからまた試験勉強を始めて、6月に教育実習に行って「やっぱり自分は教員しかない。」と思いました。

試験勉強、たくさんした?

もう、人生で1番っていうぐらい(笑)。母校に教育実習に行った時、「いざとなれば何とかしてあげる。」って言っていただけたのですが、できれば自力で教員になりたかったから。「落ちたらもうどこにも行く道がない。」と、崖っぷちに立った気分でやっていました。

試験はどうでした?

7月に筆記と論文の1次試験がありました。1次が通って、8月中旬の2次までの間に、集団討論と個人面接の練習をたくさんしました。
集団討論は、「信頼される教員とは?」というテーマで各自考えたことを発表し、その後それについて討論しました。そこで協調性を試されたというか、人の意見を受け入れながら自分の意見も言って、論点がズレないようにうまくすり合わせていきました。
9月の頭に実技と面接がありました。実技の練習は1、2回やったぐらいでしたが、実技は上手じゃなくていいので、ちゃんと指導要領に沿った動きができればいいと聞いていたので、あまり心配はしませんでした。実技と面接の割合は1対9らしいです。
試験が終わってやっと開放され、友達もみんな就職が決まっていたので遊びまくりました。でもだんだん不安になってきて、10月末の合格発表の時はドキドキでした。

合格したらすぐに赴任校が決まるのですか?

東京都は「名簿登載」と言って名簿には載るけどすぐに採用になるわけではなく、順番待ちなんです。
そのまま卒業してしまってアルバイトをしていました。6月にやっと連絡が来て、「大田区の高校で空きがでたので面接に来てください。」と言われて、私は高校のほうが良かったので「ラッキー」と思いました。

どんな高校ですか?

普通科の男女共学でちょっとだけ女子が多く、学力的には偏差値で45くらいの高校でした。決して学力が高いわけではありませんが、特に荒れている様子もありませんでした。
ただ最初に面接で行った時は、「キッタナイな。」と思いました。ペットボトルとか缶とかが、植え込みとかいたる所に捨ててあって、そんなこと自分の高校では絶対ありえなかったのでちょっとカルチャーショックでした。

生徒はどんな感じでした?

第一印象は「素直でいい子達だな。」と思いました。ただ1番になったこともなく、班長などもやったことがない子が多いので、「頑張ったってどうせ自分より上がいる。」と思ってしまうのか、何事にも自信がない子が多いように感じました。

実際に授業をやってみて?

体育は2時間連続授業だったので、準備して基礎練習してゲーム形式でやってみたいな感じで、時間はたっぷりありました。最初は指導教官について見学から始めました。それから自分なりにやってみて、「もっとこういう風にしたほうがいいよ。」とかアドバイスを受けながらやっていきました。指導教官はベテランで、授業のレパートリーも多くてすごく勉強になりました。
自分が高校生の時は体育が嫌いな子が多くて、ダラダラ着替えして遅刻したりしていたので、「そんなふうにはしたくないな。」と思っていたら、実際には、じっとしているよりも身体を動かしたいという子が多くて、時間ぴったりに来て「今日は何をやるの?」と興味を持ってくれて、みんな思ったよりも運動能力は高くて、授業はやりやすかったんです。
授業の他に、女子バスケット部も受け持ちました。

念願のバスケット部顧問ですね?

部員達に、「やるからには勝とうよ。」と言って、ミッチリやっていました。生徒に信用してもらうために自分が思ったことはハッキリ言うようにして、勉強と両立させるために試験前に学校に残して勉強させたり、ご飯をちゃんと食べているか、寝る時間や起きる時間まで指導していました。部員達も練習に打ち込んでくれて、公式戦で3回戦ぐらいまでは勝てるようになりました。

部活指導などの長時間労働で、教師が心を病んでしまうという話も聞きますが?

部活の指導は、普通に考えたら休みがなくなるのでしんどいですね。私自身も部活にかける時間の比重が大きかった。ただ私はバスケを教えるのが好きだし、もともと自分がやりたいことだったので、どっちかと言うと自分が生徒に付き合ってもらっている感覚でした(笑)。
主顧問だったので、スケジュールも自分で決められて、土日は午前中で終わりとか、今週は疲れたから休みとかにできたのもあります。例えば自分が不得意な陸上部とかの副顧問で、土日は熱心な外部コーチの練習に一日中つきあわないといけないとしたら辛かったかもしれないです。
部活は別にやらなくていいんですが、ベテランの先生からすると、「自分たちも今まで散々やってきたから今度は若い人がやってよ。」という思いもあるわけで...。微々たるものですが、いちおう報酬もいただけます。

進路指導や生活指導などもしました?

働いて3年目に1年生の担任を持って、そのまま持ち上がりで3年間やったので、その学年は2年生ぐらいの時から進路指導をしました。その学校は進学と就職が半々ぐらいで、私は推薦入試や就職する子の面接の練習や自己PRの指導をしていました。
部活や授業ではあまり悩むことがなかったんですが、指導はちょっと難しかったですね。踏み込んでいくと、実はその子にはこういう事情があったとか、自分の知らないことが現れてきて、そういうのを探りながらやらなければいけないので。自分にはちょっと遠慮があったのか、先輩の先生には「部活みたいにもっと思い切ってやればいいんだよ。」と言われました。

そして5年目に今の高校に異動に?

今年から、多摩地区にある農業高校の定時制にいます。ひとつの校舎を5時までは全日制、5時からは定時制として使っています。校舎は一緒でも教職員は違っています。定時制は4年制で、食品化学科と普通科があって、食品化学科は学校の畑で育てた作物を使って、食品加工の勉強をしています。
食品化学科は1クラス20人超で、女子がやや少ないくらいです。普通科は各学年に3クラスあって、17、8人いるクラスもあれば12、3人しかいないクラスもあります。普通科は男子が多くて女子は3、4人しかいません。

定時制って、昼間働いている人が通うための高校ですよね?

仕事しているから定時制に来るというより、今はどちらかというと、中学までに様々な事情があって全日制を希望しない生徒が来るみたいです。結果、昼間に時間ができるのでアルバイトをしています。学齢期の生徒が多いですけど、成人を過ぎた人や、4、5、60代の方もいます。

学校はどんな雰囲気ですか?

「きっと荒れているだろうな。」とちょっと構えて来たんですが、特に普通の高校と変わらなくて拍子抜けしました。ただ去年までは大変だったみたいです。例年、1年生の1学期が落ち着かないらしく、夏休みまでに辞める生徒が続出して、1学期を乗り超えても夏休みに遊び過ぎて2学期から出て来ないとか、9月か10月ぐらいになってやっと落ち着くらしいです。
最初はひとクラス20人ぐらいだったのが、1年で5、6人は減って、その後も、ブラックバイトに捕まってしまったとか家庭の事情とか、色んな理由で学校に来られなくなって1人2人と辞めてしまいます。

勤務時間は?

教職員は午後1時半から10時までです。夫婦で仕事をしている人などは、午前中子どもの面倒を見られるので、定時制を希望してくる先生もいます。生徒が登校してくるのは5時からで、授業は9時までです。部活をやっている子も9時50分までには全員帰ります。
定時制には給食があって、お金を払って予約をすれば、教員も食べられます。給食は5時10分から5時45分までで、生徒は授業の前に食べます。

登校してすぐに給食なんて嬉しいですね(笑)。

校内で給食のおばさんが昼から仕込んでいるので美味しいんですよ。45分までに食べ終わればいいので、35分ぐらいまでに来ないとさすがに「あと5分じゃ食べられないでしょ。」ってなりますが、給食を食べない生徒は5時45分から始まる1時間目の授業に間にあえばいいんです。

授業はどんな感じですか?

授業時間は45分1コマで短いんです。今までは50分でしかも2時間連続の授業だったので、最初は「45分って、これどうするの?」って思いました。出欠を確認してちょっと体操したら終わっちゃいますよね。だから何もかも大急ぎでやっています。
休み時間も5分しかないので、「前の授業が終わって体育の授業に間に合うのか?」と思っていたら、急いで着替えてちゃんと時間までに来るんですよ。生徒はそういうことには慣れていて、よほど私の方が教わっています。
生徒が3、4人の時もあります。テニスとかバドミントンなら、人数が少ない方が丁寧に教えられるし、一人がずっとやっていられるので、授業時間は短くても上達は早いです。「たった45分でここまでできるようになるんだ。」と思いました。でもバスケとかサッカーの試合はできないので、そこは切ないんですけど。
人数が少ないと生徒との距離も近くなるので、変な話、生徒の方からも多少歩み寄ってくれないと、こっちも間が持たなくて、ちょっとのことで生徒のやる気がなくなったりもします。前の高校では、1クラス女子で20人超えていたので、何箇所かポイントを教えたら、あとは各自で練習させたり、得意な子が苦手な子に教えたりできたんですが、今はそういうことはできません。

部活顧問はやっていますか?

今はバレーボール部をみています。女子部ですが男子が1人だけいます。9時から9時40分までの40分しかないので、着替えたりすると実質2、30分しか練習できません。サークルみたいな感じですが、人数が集まれば定時制と通信制の学校対抗の大会に出たりもします。私はバレーボールの指導はできないので、一緒になって練習して試合では応援しています。

生活指導などもしているの?

そこはもう体育教師の役割として絶対的に求められますね。悪いことをしたらバッて言う人がいないと、学校として成り立たなくなるので。今はベテランの先生がそういう役割をかってくれています。威厳が出てくると生徒も寄ってこなくなるので先生も嫌われたくはないと思うんですが...。
私は生活指導ではフォローに回る方が多いです。今はそれで良くてもだんだんそうも言っていられなくなるんでしょうね。ここの学校の先生は緊急対応能力がすごくて、生徒が歯向かってきたりしてもすぐに集まってきて、危ないと思ったらすっと間に入るという風に、必ず複数で対応しています。
生徒の体調が悪くなって倒れた時でも、すぐに担架を持って駆けつけたり、救急車を呼んだり、門を開けたりと、役割分担が自然にできていて、そういう意味では、教師一人で問題を抱え込むことはないので安心できます。

定時制の生徒と全日制の生徒とのコミュニケーションはありますか?

定時制の子が全日の子に会う機会はあまりありません。文化祭は一緒に開催されるので、全日制の服飾科の子たちがファッションショーをすると、定時の子たちが見に行ったりはするみたいです。
農業高校の文化祭は楽しいです。外部から一般の方も観に来ます。全日制は、レストランを開いたり、学校で育てた野菜やパンを売ったりしています。定時制の食品化学科も手作りのクッキーや味噌を売っています。評判が良くてすぐ売り切れるんですよ。でも定時制の普通科は出し物をしないので、文化祭に来ない子も多いんです。

卒業後は生徒はどんな道に?

食品化学科の子は、調理系の学校に行く人が多いようです。普通科は、今年は半分ぐらいが進学しました。専門や大学の指定校推薦もあって、一般受験する子もいます。大手企業に正社員として就職したり、アルバイト先でそのまま社員になったりする子もいます。

定時制の教員として目指しているものはありますか?

体育の授業では、スポーツを楽しんだり、日頃のストレスを忘れて動いてもらうんですけど、私は「どうすれば人に信頼してもらえるようになるか。」を念頭に置いて指導しています。それと、生徒達がこれから社会に出ていってどうしても嫌いな人とかも出てくると思うんですけど、その時に「いちいち敵か味方かに区別する必要がない。」ということもわかってもらいたい。
集団行動がうまくできない子もいるので、その子たちが就職しても社会から孤立しないように、どこかにきちんと所属して、できるだけ敵を作らずみんなに愛されるようになって欲しいと思います。

まるでお母さんみたいですね(笑)。

そうなんです。でも最近、「嫌いだった先生のことを忘れないようにしないと。」と思います。たまに自分もそうなっている時があるので(笑)。怒る時はちゃんと生徒を見てから言うようにしないと...。

仕事で楽しいことは?

やっぱり、部活や授業で生徒を指導している時が一番楽しいですね。指導しながら、「先週より上手くなったな。」とか「今日は楽しそうにやっているな。」とか「機嫌が悪いな。」とか、そんなことを考えているのがいちばん楽しいかな。
他の先生も「授業中がいちばん安心する」っておっしゃいます。一人舞台だし、余計なことを考えずに生徒とコミュニケーションをとっていられるから、それが楽しくないならもう先生になった意味がないですよ。

これからもずっと先生でいたいですか?

いたいですね。産休もバッチリ取れるし職場にもちゃんと戻れます。でもパン屋さんもちょっとやってみたいんです。食品化学科の生徒には、「いつかパン屋さんになるから、私にパンの作り方を教えなさい。」って言っています(笑)。ちょっと早めに引退したら、田舎で地元の子ども達が来るようなパン屋さんをやりたいですね。

ではパン屋さんになる日まで、お母さんみたいな体育の先生でいてください(笑)。