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スポーツ・サービス系
整体師

尾形 直子(2003年度・舞踊学専攻卒)

個人経営


整体で世界をわたり歩く!

尾形さんはフリーの整体師として働きながら、ダンス活動を続けています。今回はベルギーのダンスカンパニーROSAS(ローザス)でのお仕事の様子をお聞きしました。
<2015.07収録>

整体でベルギーに行ってきたそうですね?

はい。ダンスカンパニーRosas(ローザス)の仕事で、ダンサー達の身体のケアをするために、3月下旬から2カ月ほど行ってきました。
ベルギーに行く直前に2年ぶりの風邪をひいてしまって、飛行機の中で鼻水が洪水のように出て、ブリュッセルに到着した次の日から、声もよく出ない状態で仕事に臨むという申し訳ないことになってしまいました。
会場はブリュッセルの昔ビール工場だったアートスペースで、エキシビジョンにはローザスの他にも、アフリカの女性アーティストが常設展示で出展していたり、ローザスの主宰のアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマーケルがソロ作品を作って発表していました。
着いてすぐ作品を観せていただきました。「Work/Travail/Arbeid」という、ミュージシャンの奏でる音にダンサーの振りが細かいところまで重なって、まるで音を観るような、動きを聴くような、素敵な作品でした。
使われている楽器は、バイオリン、ヴィオラ、チェロ、フルート、クラリネット、あとピアノ。時間帯によって楽器1つだけとか、ストリングスだけとか、ピアノ1台とか、たまに全部の楽器とか、それぞれの演奏にからんでダンサー達が踊っていました。
2カ月間、水曜日から日曜日の11時から18時まで、いつ訪れても踊っているという長丁場の舞台を、ダンサー14人、ミュージシャン6人が、1時間ごとのシフトを組んで回していました。

どんな人が観に来るの?

平日の昼間は学校毎で大勢の学生が観に来ていたり、土日は小さい子ども達からおじいさんおばあさんまで色んな人が観に来ていました。最初は「こんなに長くやって人が来るのかな?」って思ったんですけど、みな映画を見るのと同じような感覚で来ていて、改めて「ダンスが身近な環境だな。」とうらやましく思いました。

現地では整体をどのように行っていたのですか?

会場2階の一画を借りて、2時から6時まで施術をしました。楽屋に予約表を貼って、踊り終わった人から順番に受けに来て。最初は風邪で声も良く出ず、英語も久しぶりすぎて聞き取れなくて、休憩なしの4時間ぶっ通しの施術はけっこう大変でした。
みな初めての人ばかりなので、「How do you feel today?」と毎回最初に聞いてたのですが、みんな必ず「fine!」と言ってくれて、「あ、大丈夫なんだ。」と身体を触ったら「ん?全然大丈夫じゃないじゃん!」ということが続きました。あちらの人は身体の調子が良くなくても最初に必ず「Fine!」と言ってくれるので、初めは惑わされました(笑)
ダンサー達はみな疲れが溜まっていたので、最初の1週間くらいは筋肉の表面の硬さを取る施術をしていきました。2週間目以降、だんだん良くなってきて、「みんな反応が早いな。」と思っていたら、3週目あたりからまた筋肉が硬くなってきました。
ダンサー達には1日2回3回と踊っている人もいて、楽屋にはケータリングやお菓子がたくさん置いてあり、ダンサー達に聞いたら「休憩1時間だと周りにお店もなく食事を取るのも難しいので、チョコとかナッツを食べてまた踊っている。」と...。
そういうのもあって肝臓が疲れてきたんでしょうね。さらに暖かくなってきて、冬に溜め込んでた色んなものが身体から出てきて、肝臓が疲れているのできちんとデトックスできず、いい血液が廻らなくなって筋肉が硬くなっちゃったのかなと思いました。
それで週に2回、小さい焼きおにぎりを20個とか30個とか作って、ダンサー達に施術プラスおにぎりを食べてもらいました。ダンサーにも喜んでもらえました。

施術しながら色々お話をしたり?

整体って、単に肉体的な疲労を取ったり筋肉の張りをほぐすだけでなく、顔の表情を見たり生活習慣など色々なことを聞いて、身体の中のことを推測するんです。中国医学では、怒りは肝臓、恐怖は腎臓、悲しみは肺、喜びは心臓と関係があると言われています。
悲しいとか怒っているとかがあると、そういうのも臓器に出て来るので、「ここの張りがなかなか取れないのは、こういう推測があるんだけど...。」とか言うと、「何でわかるんだ?」ってびっくりされたりもしました。

ダンサーの身体ってどうですか?

ダンサーと言っても筋肉や骨格は人それぞれなので一括りにはできないのですが、感度のいい人だとちょっと頭とか首を緩めるだけで全身フニャフニャになるし、うんとほぐさないと中々ゆるまない人もいます。その違いですが、ダンサー達と話していて思ったのは「やっぱり食生活かな。」と思いました。
和食とかマクロビオティックを取り入れて、日頃から食事に気をつけてる人は身体が素直だし、お肉や甘いものばかり食べて、あまり食事に気を使ってない人は、身体がちょっと頑固です。

整体用のベッドは日本から持っていったの?

ローザスで使っているベッドを借りました。向こうの人の体格に合わせているので、まぁ大きくて幅も広いし、一番低いものでも「高っ!」っていう感じでした。
整体のベッドはそんなに幅はなく高さも低めなんですよ。特に高さは力のかかり具合もあるので、「どうしようかな。」と思っていたら、1、2週間立つうちに「高いほうがいい。」って思うようになったんですよ。
かがまないので施述していて楽だし、力を入れずにただ触れたりするだけでも、今まで体重をかけてやってた時と効果が変わらなかったんです。前かがみになると力は入るけど、入れた力に対して身体も力で返してしまうと言うか...。

今時の政治みたいな話ですね。やさしく触るほうがアンテナが敏感になるんでしょうか?

そうなんですね。繊細な人ほど、ただ触って共鳴させるだけで大丈夫でした。女性の方が感覚は鋭いと思います。あとゲイの人たちの身体は、もしかしたら女性よりも感受性が鋭いかも知れません。今回は4人ほど会いました。
そういう感度は段階があるので、身体が気づくまでは少し圧をかけてあげて、身体が細部までよく気づくようになったら触るだけで整っていきます。まだ練習中ですけど、これからは極力ちからを入れずにやっていきたいと思っています。

演奏者にも施術を?

ミュージシャンも受けに来てくれて、ミュージシャンの身体の方がちょっとまずい状態でした。普段座って演奏してる人が、パフォーマンスの中に入って一緒に演奏するので、チェロの人とかはチェロを首に引っ掛けたりして肩や腰、膝に来ていたり、クラリネットの人は筋肉が固くなって呼吸が浅くなっちゃったり。
パフォーマンスのルールの中で演奏しなきゃいけないとか、色々ストレスがあったと思います。身体を整えることで音に変化があるのか、後から演奏の感覚を聞けたりしたのも興味深かったです。

向こうで、整体の評判はどうでした?

自分の施術がどういう風に受け入れられるのか不安でしたが、最初の週は全員が予約を入れてくれて、それからもずっときてくれたのでちょっと安心しました。
みんなに「これは何て言うの?」って聞かれて。整体って日本でできたものなので翻訳語はないんです。整体が世界共通語になればいいんですけどね。しいて言えばオステオパシーですが、みんなには「Naoko's Finger pressure」とか「Naoko's Massage」とか呼ばれていました。
自分の中では整体という言葉もしっくり来ていなくて、自分でいいと思ったものをかき集めて作った流れなので、マッサージでもあるし指圧でもあるしヒーリングでもあるんです。
身体も楽器のような気がしていて、身体の奥の目に見えないところの調節をして、いいパフォーマンスをしてもらうイメージです。そう言う意味では、「身体調律師」と言うのががいちばんしっくりくるかな。

身体調律師、いい言葉ですね。アンヌテレサも施術を受けましたか?

はい。ちょっと空いた時に「どう?」みたいな感じで来てくれて。でもめちゃくちゃ忙しい人なので、施術も丸々1時間は受けられなくて「15分で。」みたいな。

そういう時は、何か話すの?

いいえ。すぐにもうグーグー寝ちゃいます。でも「あなたが来てくれて本当に良かった。おかげでみんな乗り越えられたわ。」って言っていただけたのは嬉しかったです。私も彼女の踊っている姿を久しぶりに生で観られて感動しました。

整体はローザスの福利厚生みたいなものですか?

そうですね。私はローザスから報酬を頂いていたので、ダンサー個人はタダで受けられました。ギャラは事前に提示されて、でもそれが経理にちゃんと伝わっていなかったらしく、帰国する直前にやっと振り込まれて、ちょっとドキドキしました。やっぱり最初にちゃんと契約書を交わすのは大事だと思いました。

どこで暮らしていたの?

ローザスの人のお家に泊めさせてもらいました。ほぼ毎日自炊していて、お米はチャイニーズショップで買いました。向こうはビオショップが多いので有機野菜が美味しいんですよ。体調が悪かった時はずっと日本から持っていった味噌汁を飲んでいて、「やっぱり日本人は味噌だな。」って思いました(笑)。昼食は出勤前にRosasでマクロビランチをいただいていました。

ベルギーは、パンもチーズも美味しいですよね。

そうなんですよ。でも、私は牛乳は昔から体質に合わなくてお腹を壊しちゃうし、小麦粉も食べたあとにちょっと身体がかゆくなるので、行く前はやめていたんです。でもそれらが一番美味しい国に行ってしまって(笑)。
向こうでチーズを久しぶりに食べて不思議な感覚を味わいました。消化器系や脳みその隙間に、膜が貼るような感じがして。でもベルギーのパンはやっぱり美味しいし、向こうで食べて最初はかゆかったけど慣れるもんですね。

今回、行ってみてどうでしたか?

なぜかブリュッセルに縁があって、今回で3回目ですが、行くたびに友達も増えて、みんなに来て欲しいって言われ、向こうに住むこともちょっと考えました。オステオパシーや指圧も人気があるみたいなので、向こうでやっていく自信はあります。
ベルギーは英語も通じるので生活しやすいと思います。物価は日本と同じくらいかな。野菜とかは安いですね、家賃もブリュッセルの中心地は高いけど、ちょっと郊外に行くと安いです。移民も多く、全人口の6割くらいを占めています。
向こうでニチジョOGに会いましたよ。ローザスと王立モネ劇場によって設立されたブリュッセルのコンテンポラリー・ダンス専門学校「P.A.R.T.S(パーツ)」の2年生で、「卒業したらベルギーでオーディションを受けて、ダンサーとしてやっていきたい。」と言っていました。ローザスも今はほとんどがフリーランスのダンサーらしいです。みんなそれぞれ他に仕事をやりながら、プロジェクトごとに集まってツアーで回っています。

ベルギーに拠点を移すことも考えている?

でも私は踊っていないと自分を保てないので、踊りに関しては日本でのつながりを大事にしたいと思っているんです。日本で色んな人たちと一緒に作品を作っていくのが楽しいので...。整体で働きながらダンスをしてヨガもしてっていう、そのバランスが保てる場所はやっぱり日本なのかな...。

これからの予定は?

ローザスの仕事で、来年2月にまたパリに行く予定です。今度は2週間ぐらいになると思いますが、1日10時間というさらにハードな感じになるらしいです。まだ口約束なので、確実に行くかどうかは分かりませんが、ダンサー達は私を呼んでくれるよう協力するって言ってくれてます。
実はベルギーから帰ってきてからあんまりガツガツ働いていないんです。踊りのお話が最近多くてイベントやライブに出たりしています。11月には久しぶりに舞台で踊ります。そういう活動が今後に繋がっていけばいいと思っています。
最近は食生活に一番興味があって、自分の食生活を見直しています。自分の食べているものがどこから来てるのか、どういう風にできているのか気になるんですよ。

禅僧のようですね。豆一粒、感謝しながらいただく...「功の多少を計り、彼の来所を量る」みたいな(笑)?

まさにそんな感じです。このまま行ったらやっぱり農業かな(笑)。