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新しい学習指導要領と体育授業の在り方

高橋 修一さん

スポーツ庁政策課 教科調査官 国立教育政策研究所教育課程研究センター 教育課程調査官


今回のお客さまは、スポーツ庁政策課 教科調査官の高橋修一さんです。高橋さんは、山形県の公立高校で保健体育の教諭を20年、山形県教育庁スポーツ保健課指導主事を6年勤められた後、平成26年4月より文部科学省スポーツ・青少年局体育参事官付教科調査官に着任されました。これまでの教育現場や教育行政での経験を振り返りながら、これからの「先生」に必要とされる資質を紹介するとともに、「体育」という教科の進むべき方向性をお話いただきます。
<2018.06収録>

高校教諭から指導主事を経てスポーツ庁へ

私はもともと山形県で20年間、高等学校の教員として務めていました。それから県の教育委員会に異動になり6年間勤務しました。その後、当時の文部科学省、現在のスポーツ庁に入庁して5年目になります。スポーツ庁では、スポーツを通じて「国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む」ことができる社会の実現を目指しています。

そのスポーツ庁での私の主な仕事は、中学校と高校の学習指導要領の編纂です。学習指導要領は日本の教育課程の基準を示したものです。日本においては、地方でも都会でも教育水準は、ある程度同じ水準が保たれています。これは学習指導要領によって、全国の先生たちが指導しているからなのです。

今この時期に、私が、このような講義をする意味を考えると、教員採用試験があって、学習指導要領と密接に結びついているからだと思います。教員採用試験を受けよう、と思っている方はいらっしゃいますか? (学生のほとんどが挙手)
がんばってください。教員という仕事はおもしろいですよ。子供たちと一緒に自分も成長していくことができる素晴らしい職業です。

学習指導要領と教員の関係性

教員になることと学習指導要領にどのような関係性があるのか説明しましょう。教員採用試験の過去の問題、例えば東京都は大問、中問、小問の構成で25問あります。その中で、学習指導要領関連の問題が18問あります。学習指導要領を覚えておけばすべてが解けるというわけではありませんが、関連している問題を見ると、おおよそ東京都で72%、神戸市で84%、広島県で75%が学習指導要領関連です。教員採用試験を受ける時に勉強しなければならないものとして、学習指導要領を外すことはできません。

学習指導要領を作成する上で踏まえる内容として、中央教育審議会の答申というものがあります。大まかにいうと、文部科学大臣が有識者による中央教育審議会に「今までこれをやってきたけれど、どのような成果と課題があって、今後どうすればよいかを考えてほしい」という諮問をします。中央教育審議会は、今までの学習指導要領では、こういう成果があったが、このような課題もあった。今後はもっとこうすべきだ、という答申を大臣に提出します。この答申を踏まえて作成されたのが今回の学習指導要領と解説です。

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現代の子供たちの現状と日本の未来

学習指導要領の作成にあたって、有識者がどのような話をしたかを簡単にお話します。まずは、子供たちの現状を知らなければなりません。OECDという国際的な教育機関が行った学力の調査によると、読解力や数学的リテラシー、科学的リテラシーについて、日本は、世界でも1位、2位を争うぐらいの結果が出ています。

一方、生徒の自己肯定感、社会参画に関する意識について「自分には人並みの能力があるか?」という質問に90.6%の高校生が"ある"と答えているのは韓国、中国、アメリカ、日本の4ヶ国のうちどの国だと思いますか?
アメリカだと思う人は? (7~8人の学生が挙手)
韓国だと思う人は? (学生の挙手なし)
中国だと思う人は? (7~8人の学生が挙手)
日本だと思う人は? (学生の挙手なし)

「自分には人並みの能力がある」と答えた高校生が一番多いのは中国です。2番目はアメリカです。一番低いのが日本です。
また、「自分はダメな人間だと思うことがあるか?」という質問に対して、一番少ないのが韓国です。2番目はアメリカです。一番多いのが日本でした。人並みの能力があると思っている子は少なく、自分がダメな人間だと思うことが多いのが日本の高校生の傾向でした。さらに、「私の参加により社会現状が少し変えられるかもしれない」と思っている中学生、高校生の割合は、中学生、高校生ともに4ヶ国中「そう思う」というのは日本が一番少ない割合でした。逆に、「そう思わない」という生徒は他の国の2~3倍になっています。これが日本の中高生の現状の一つです。

さらに、我が国の国際的な存在感に関するものとして、国内総生産を見ると、1993年には世界で2位だったのですが、2012年には10位に落ちています。アジアの中では中国から完全に抜かれているという状況です。また、日本の人口の推移と将来人口のグラフを見ると、少子高齢化により50年後の日本の総人口が3割減り、65歳以上の人口が全人口の4割になるという予測がされています。となると、当然のことながら生産年齢人口、いわゆる15歳から65歳が、2060年には2010年と比べて半減するという現状があります。

学習指導要領がするべきこと

このような状況をふまえ、新しい学習指導要領をどのように捉えるべきかが重要です。例えば、人工知能が進展していって人間の働く場を奪うのではないかという指摘があります。確かに膨大なデータの中から最善のデータを探し出すことは人工知能は得意です。ある目的地に行きたいけれど早く着ける方法は、という時に人工知能は力を発揮するかもしれません。ただ、学校という教育の場面を考えたとき、児童・生徒たちに対して物事を伝えるときに、判で押したように同じことを言うでしょうか。私の経験から言うと、決してそうではないと思います。子供の現状とか性格とかそれによって言い方を変えたり、言う場面を変えたりするでしょう。このように人間は、物事に柔軟に対応することができます。また、「子供の心に火をつける」、いわゆる子供たちをやる気にさせるということは、人間でなければできないと思います。

未来の社会に求められる人材

このような時代に求められる「力」とか「人材」は?という時に、1つ目として、「伝統や文化に立脚した広い視野と深い知識を持ち、高い志や意欲を持って何が重要かを主体的に判断できる人材」が求められています。2つ目としては、「他者に対して自分の考えなどを明確に説明しながら対話や議論を通じて相手の考えを理解したり、自分の考え方を広げたりして多様な人々と協働していくことができる力、人材」。さらには、「自ら問いただして解決方法を探索し、新たな価値を創造していく。そして、新たな価値の問題点を見つけて解決していくことができる力、人材」。こういったことが必要になってくると思います。この部分は答申での「主体的な学び、対話的な学び、深い学び」につながるキーフレーズになっていきます。この部分は採用試験のために頭に入れておいたほうが良いと思います。

そして、今回の学習指導要領改訂の方向性の一つとして「何ができるようになるか」という点があります。現行では「何を知っているか」が重視される傾向がありましたが、「将来の予測がますます難しい時代」においては、物事をただ知っているだけではなく、学習したことを活かして、何ができるようになるかということが非常に大切になります。また、「何を学ぶか」ということについては、各教科等で育む資質・能力を明確にし、目標や内容を構造的に示すとともに、新しい時代に必要となる「資質・能力」を踏まえた教科・科目等の見直しがされました。例としては、外国語が小学校で教科化されたり、選挙権年齢が18歳に引き下げられたことなどにより高校に「公共」という教科ができました。さらに、「どのように学ぶか」ということについて、質の高い深い理解をするための学習過程、いわゆる単元の作り方などをしっかりと見直していくことが重要であることが示されました。今回の改訂では、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む」という「社会に開かれた教育課程」の重要性についても示されているところです。

子供たちに必要な資質・能力とは

「生きる力」とは何でしょう。これまで同様、「生きる力」を育む重要性が指摘されたところではありますが、「生きる力」の具体がわかりにくいという指摘もなされました。今回の学習指導要領の改訂では、この「生きる力」をより具体化して、教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力を3つの柱で整理しました。1つめは「知識及び技能」。2つめは「思考力、判断力、表現力等」。3つめは「学びに向かう力、人間性等」です。各教科・科目等とも目標、内容がこの3つの柱で再整理され、体育も「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の柱で再整理しました。

学習の計画を立てることの重要性

まず「アクティブ・ラーニングの視点」に着目したいと思います。これは何かと言いますと「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の視点」ということです。その際、重要な点は、これまでのやり方を否定し、今までとまったく違うことをやらなければいけないのかというと、そうではないということです。今まで先生方が工夫・改善をしてきたものを生かしつつ、「主体的な学び、対話的な学び、深い学び」になっているかという視点で、授業をもう一度見直しましょうということです。また、1回ごとの授業で、そのすべてが実現されるものではないことに留意することが大切です。以前の答申の中で「自主性を尊重するあまり、指導を躊躇する場面があったのではないか」という指摘がありました。例えば、ボールを準備して「さあ、みんなで好きにやってみよう」と言うと子供たちは何かしらやりますよね。でも「今日、何がわかったの?」と聞いたら「楽しかった」とだけ答える。楽しいことは非常に大切なことですが、それだけでは学びとはいえないですよね。子供たちが主体的に学習するには、教員が計画をしっかり立てた上で、教えるべきことと、子供たちにあずけるべきことの場面設定をしっかりとしなければならないと思います。学習を見通し、振り返る場面をどこに設定するか。グループなどで対話する場面をどこに設定するか。児童・生徒が考える場面と教員が考える場面をどのように組み立てるか、しっかりと計画を立てることが重要です。

「"主体的、対話的で深い学び"の実現に向けた授業改善を行う上で重要なことはなんですか?」という問題が出たら、頭の中にキーワードを入れて、それに沿って記入していけばいいと思います。「"主体的・対話的で深い学び"の視点に立った授業改善を行うことで、学校は教育における質の高い学びを実現し、学習内容を深く理解し、資質・能力を身につけ、生涯にわたって能動的(アクテイブ)に学び続けるようにすること」と答えればいいのです。

さて、「主体的な学び」とは何でしょう。学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って、次につなげるような学びになっているかどうかという視点で授業を見直してみること。それが主体的な学びの視点です。

次に、「対話的な学び」ですが、子供同士の協働、教職員や地域の人々との対話、先人の考え方を手がかりにして、自分の考えを広げたり深めたりするような授業ができているかという視点で、もう一度授業を見直してみること。

「深い学び」というのは、知識を相互に関連付けて、より深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見出して解決策を考えたり、創造したりすることに向かっているかという視点で、もう一度、授業を見直していくことです。
採用試験に問題が出たらこのように答えればいいのです。教員になっても非常に重要な視点ですので、覚えておくことが大切です。

「見方、考え方とは?」と聞かれたなら、「教科等ならではの物事をとらえる視点や考え方であったり、各教科などを学ぶ本質的な意義の中核をなすものであったり、教科などの学習と社会をつなぐものです」と答えればよろしいかと思います。でも「具体的になに?」と聞かれたら困りますよね。では、具体的に体育と保健の「見方・考え方」とは何か。というと、「個人及び社会生活における課題や情報を、健康や安全に関する原則や概念に着目してとらえ、疾病等のリスクの軽減や生活の質の向上、健康を支える環境づくりと関連付けること」と整理しています。例えば小学校では、保健の授業は身近な生活に関する知識などを学びます。その知識を覚えるだけではなく、学んだ知識も活用して、病気やケガのリスクを軽減する方法を考えられる授業にしていきましょう、ということです。
また、中学校では、個人生活における知識や概念、原則を学びますから、それを活用して、どうやって疾病等のリスクの軽減や生活の質の向上につなげられるかを考えられるような授業を仕組んでいく。高校では、さらにプラスして、社会生活における概念や知識、原則を学びますから、健康を支える環境づくりにつなげるには、どのようにすればよいのかを考えられるような授業にしていくことが求められます。

学んだ知識を生きて働く知識に

体育では、「運動やスポーツを、その価値や特性に着目して、楽しさや喜びとともに体力の向上に果たす役割の視点からとらえ、自己の適性などに応じた「する・みる・支える・知る」の多様な関わり方と関連付けること」と整理しています。体育は、ただ授業で体を動かすだけではなく、豊かなスポーツライフの実現に向けて、どのようにスポーツと関わっていくことができるかを考えられるようにしたいと考えています。その時に、何が大事かというと、体を動かすこと自体の楽しさを実感するとともに、それぞれの領域の特性に触れられるような授業づくりが求められます。例えば、武道とダンスでは特性が違いますよね。この領域はこんな楽しさがあるのか!というのを知った上で私たちはスポーツとどのようにして関わっていけるか考えられるようにしてほしいと思います。また、体力の大切さや必要性、体力の高め方を実感できる授業も大切です。

また、「する・みる・支える・知る」と、新たに「知る」が加わりました。当然、「する」ことが体育の中核なのですが、したくてもできない子もいます。障害がある子供たちができない場面もあります。そんな時に「知る」ということで「私はスポーツと関わっている」と言ってもらえるようになってほしいと思います。また、「する、みる、支える」方法や内容を知ることで、さらに「する、みる、支える」につなげて、1億総スポーツ社会となることを願っています。さらに、「支える」というのはボランティア的なものが意識にあるかもしれないのですが、授業の場面で児童・生徒にアドバイスをするとか、ビデオに録画して課題を見つけてあげるとか、そういう事もスポーツを通した支えになっています。体育は全国民が小学校から高校まで受ける必修の授業です。体育の授業で体育嫌いをつくってはいけないのです。体育が好きだ、スポーツが好きだとみんなに思わせるような気持ちが学習指導要領には込められています。

カリキュラム・マネージメントとは

ここで、カリキュラム・マネージメントの話題に移りたいと思います。カリキュラム・マネージメントとは、教育活動の質を向上させ、学習の効果の最大化を図ることです。3つの側面があり、1つ目は学校の教育目標をふまえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していきます。小学校の例だと、心臓や筋肉の働きの学習は理科で習います。運動したら心臓がドギドキするというのは体育や保健で習います。子供の立場からすれば、同じ時間に教えてくれたらもっとよくわかったのにと思います。ちょっと配列を変えれば、子供たちの資質・能力をより育むことができるのではないかということです。

2つ目は、教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状に関する調査や各種データなどに基づき、教育課程を編成、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立しましょうということです。

3つ目は、教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源などを、地域等の外部の資源も含めて活用しましょうということです。外部の人から教えてもらった方が、子供たちの資質・能力がより育まれるという視点で外部の人をお願いするか、学外の施設を使うかを考えればよいと思います。

学習の最終的な目的とは

次は、知識を基盤とした学習の充実です。体育の知識はいわゆる形式知と呼ばれる文字にすることができる知識だけではありません。ある有名なスポーツ選手の言葉のように「もっと、バーンといったほうがいい」みたいな、そんな暗黙知と呼ばれるコツみたいなものも体育の中では知識として含まれます。また、特定の運動種目などの具体的な知識を理解することが学習の最終的な目的ではありません。例えば、マット運動でアゴを引きましょうとか言いますが、では、何のためにアゴを引くのか?マット運動で順々に接地していく事と、回転力を高めることを知っていれば、様々な技ができることにつながります。ですから、アゴを引くという具体的な知識だけを覚えるのではなく、順次接地と回転力を高めるという汎用的な知識を知ることによって、知識と技能を関連付けて学習することができます。汎用的な知識を学ぶことによって、より具体的で分かりやすいアドバイスを送ることも可能になっていきます。

思考力、判断力、表現力等においても、より効果的に育むためにも汎用的な知識を身につけることが重要です。汎用的な知識を学ぶことによって、課題の発見の方法が変わったり、より具体的で分かりやすいアドバイスを送ったりすることも可能になっていきます。また、体育理論と体つくり運動とも関連付けて学習することが大切です。

「学びに向かう力、人間性」などについての学習指導要領の内容ですが、例えばルールやマナーを大切にしようとすることは、単に決められたルールやマナーを守るだけでなく、自らの意思で大切にしようとすることを示しています。ただ単に、ルールやマナーを守ることは大事だから守れ!ということではなく、ルールやマナーを大切にすることは、友情を深めたり連帯感を高めたりするなど、生涯にわたって運動を継続するための重要な要素となるという、その意義を理解した上で取り組むことができるようにすることが大切です。

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全ての子供が楽しめる体育に

次に、「豊かなスポーツライフ」についてお話します。なぜ、この項目を提示したかと言いますと、スポーツ基本法の前文に、スポーツは世界共通の人類の文化であると記載されています。そして、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利とも記載されています。体育の授業においても、全ての人々が楽しくできるようにするにはどうしたらいいのか考える場面がなければいけません。当然、得意な人たちができる場も必要で、それを否定しているわけではありません。しかし、運動が苦手な子供たちも、楽しむことができる授業をつくっていかなければならないと考えています。

また、いわゆるスポーツの定義が、競技としてのスポーツから、誰もが生涯にわたって楽しめるスポーツへと変容してきたということを体育理論で学習することとなっています。現在は、身体活動を含めたものをスポーツと呼ぶようになっています。いろんな意味でスポーツを幅広くとらえています。また、体育理論では、運動やスポーツには、「する・見る・支える・知る」などの多様な関わり方、自己に適した運動やスポーツの多様な楽しみ方を見付けて工夫することが大切であることを学びます。

中学校で行う体つくり運動では、運動を継続する意義を学習することとなっています。運動を継続する意義は、心や体の健康や体力の保持増進につながったり、地域などとのコミュニケーションを広げたり、余暇を充実させたりして生活の質を高めることにもつながるような内容を学びます。体育理論や体つくり運動及び保健と関連付けながらそれぞれの領域の学習を進めることで、豊かなスポーツライフの実現に向かうことができると考えています。

スポーツを生涯にわたって楽しむために

スポーツ実施率は平成3年からずっと伸びています。非常によい傾向です。しかし、運動が必要な60~70代は実施率が高いのですが、20~40代は低い傾向があります。健康のためだけではなく、体を動かすこと自体が楽しいと思えるようになれば、スポーツを行なうようになるのではないかと思います。体育の授業の中で、体を動かす楽しさやそれぞれの運動の特性が学べるようになればいいなと思っています。体育理論や体つくり運動と関連付けて、いろいろな運動の楽しさや喜びを実感させていくことが非常に重要なのです。

学習指導要領は、小学校1年生のときから高校卒業までの12年間が系統立てて作られ、中学校3年生から器械運動、陸上競技、水泳、ダンスから一つ以上、球技、武道から一つ以上を選択して学習することになっています。球技と武道は、なぜ同じくくりの中に入っていると思いますか?球技と武道は"攻防"を楽しみますよね。器械運動、陸上競技、水泳、ダンスというのは自分の動きの質を高めることなどを学びます。この中から最低一つ以上選んで、最後に高校2、3年では全部の中から選べるつくりになっています。

高校での知識・技能に関する話ですが、例えば高校の器械運動では「技を高めて」「滑らかに」という箇所が削除されました。陸上競技は「技能を高める」という文言が削除されました。球技は、「仲間と連携した動きを高めて」が削除されました。ダンスは、「表現や踊りを高めて」が削除されました。技能を高めることだけが生涯スポーツにつながるわけではないということを明確にしました。
また、「思考力、判断力、表現力等」については、「生涯にわたって運動を豊かに継続するための自己や仲間の課題」の発見が大事です。技能を高めることだけを目指した課題ではなく、「する・みる・支える・知る」という視点で、運動を豊かに継続するための課題に着目することが大切です。

「学びに向かう力、人間性等」の項目では、一人ひとりの違いを大切にしようとすることを全ての領域に共生の視点として入れてあります。これは、障害の"ある""なし"だけではなく、運動が苦手な子どもも含めて、児童生徒全員が楽しむことができる体育を目指したものです。

学習指導要領の改訂のポイントは、小学校では運動を苦手と感じている児童や運動に意欲的に取り組まない児童、障害のある児童についての配慮事項が明示されました。中学校では体力や技能の程度、年齢や性別及び障害の有無等に関わらず、運動やスポーツの多様な楽しみ方が共有できるように内容を改善しています。高校では、同じように運動やスポーツの多様な楽しみ方が社会で実践できるように内容を改善しています。このように、小中高一貫した流れの中での改訂を行っています。さらに、幼稚園についてですが、5つの領域の内容を、幼稚園における生活全体を通じて総合的に指導することが大事です。それぞれの領域において、「運動遊び」や「多様な運動」の視点を取り入れることが大事です。また、今回の改訂の中では、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が示されています。さらに、特別支援の中では、連続性のある"多様な学びの場"において十分な学びを確保しなければなりません。平成30年度より高校でも通級の指導が制度的にできるようになりました。その場合にも個別の計画を立てる必要があります。「する・知る・みる・応援する」の多様な関わり方の視点をぜひ計画の中に入れてほしいと思っています。

保健体育の価値と必要性

みなさん、これまで体育の授業で学んできて、何を身につけることができましたか?教育実習で教えた子供たちに同じ質問をしたら、何と返事してくれるでしょうか。「技能」とは言ってくれるかもしれませんね。学習指導要領上の内容としては、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」ですので、それらが身についたと子供たちには言ってほしいと思います。体育の授業では、技能はもちろんのこと、知識や考える力や態度が身に付いたと子供たちが実感できる授業を行うことによって、すべての国民が学ぶ保健体育の価値が上がると思うのです。「体育はなくてはならないもので、重要な教科だ」と全ての子供たちが実感し、そう言ってもらえるようになりたいと考えています。ぜひ、そのような子供たちを育てる先生を目指していただきたいと思います。
スポーツ庁では「スポーツで人生が変わる」、「スポーツで社会が変わる」、「スポーツで世界とつながる」、「スポーツで未来をつくる」という1億総スポーツ社会の実現を目指しています。みなさんもその実践者であってほしいですし、子供たちにもスポーツの素晴らしさを伝えていってほしいと思います。
皆さんが素晴らしい教員になることを心から期待しております。
本日はありがとうございました。

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