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教員採用試験と教育の現場

大井 俊博さん

昭和学院中学校・高等学校 校長


本日のお客さまは、昭和学院中学校・高等学校 校長の大井俊博さんです。大井さんは都立高校の保健体育の教員、校長を歴任した後、東京都教育委員会にも在籍していました。本日はこれまでの教員生活を振り返りながら、採用や教育の現場で必要とされるものについてお話いただきます。
<2016.07収録>

こんにちは、大井と申します。皆さんの中で教師になろうと思っている人、ちょっと手を挙げてみてください。はい。4年生は、教育実習に行って教師になりたいと思いましたか?思った。そういう気持ちがあれば、あなたは必ず教師になれます。今日はそんな話をしていきたいと思います。

教師になるまでの道

最初に、私がどうして教師を目指したか簡単にご説明します。私は四国の香川県生まれで、高校まで香川にいました。中学から剣道を始めて、でも専門の先生はいなかったので見様見まねで練習をしていました。郡の大会で優勝して県大会に行きましたが、さすがに県大会では他の中学にかなわず、圧倒的な実力差を感じました。

それで「高校は剣道の専門家がいる高校に行こう」と思い、香川県で進学校としてはナンバー3の高校に進み、そこで顧問の先生に指導を受けながら、剣道をガンガンやっていました。3年生の、あと一回勝てばインターハイに行けるという大会で、個人戦でベスト4まで進みました。

結局インターハイには出場できなかったのですが、自分の剣道に対してはすごく自信になり、「今後も剣道をやっていきたい。顧問の先生のようになりたい」と思いました。それが教師を目指したきっかけです。「やるからには先生と同じ大学に行こう」と、東京教育大学から移行した筑波大学に第1期生として入学しました。

それで香川県の教育採用試験を受けたのですが、その時は採用が1名で私は落ち、東京と埼玉で合格しました。そして、そんなことはめったにないのですが、自分が教育実習をやった高校からオファーが来たんです。先生方が、私を気にいってくれたようでした。

なぜだと思いますか?「飲みっぷりが良かったから」ということでした(笑)。教育実習生は忙しいから、普通先生に誘われても飲みには行かないのですが、僕は行っていたんですね。もちろん、飲んで帰ってもちゃんと教案は書きましたよ。そういう努力が実って、教師としてスタートすることができました。

いろいろな高校に赴任して

最初の高校には10年いました。ランク的には中くらいで、生徒は悪さもするけれど素直な子が多かった。僕はそこで剣道部を持って教えました。2年目に1年生の担任を持ち、ものすごく嬉しくてね。張り切ってやっていました。ところが6月に、一人の生徒が自殺をしてしまったんです。彼は精神を病んでいて、病院と学校を行き来する生活を送っていたのですが、下校時に自殺を図ったのです。

思い出すと未だにつらいんですが、私はショックで体重も10キロくらい落ちて、しばらくは立ち直れませんでした。そんな時に私を支えてくれたのは生徒達でした。私が悲しい顔をしていると笑わせようとしたり、いつも声を掛けてくれました。自分にとっていちばん思い入れが強い高校です。

次に赴任した高校は、帰国子女受け入れ校でした。帰国子女と言っても、ヨーロッパとかアメリカに行っていた子ではありません。中国からの引き上げの子達で、彼らは中国ではジャパニーズと言われ日本ではチャイニーズと言われ、自分としての立場がないんです。私のクラスには帰国子女の男子が4人いました。

彼らは、いつも校内で問題を起こしていて、外でも警察沙汰になり、もう学校には置いておけないとなりました。彼らも「やめるのはもうしかたない」と覚悟を決めていて、結局全員退学したのですが、私はその子達の家に行って事情を聞いたりしていました。最後に別れる時は、「先生にはお世話になりました」と言ってくれました。そういう連中にも、きちんと対峙して逃げなかったので、心を開いてくれたんですね。

次は進学指導重点校でした。東大とか早稲田にバンバン入るような、ほっといてもやる生徒達で、制服もないし、もう大人みたいでしたね。前の高校に比べて、「すごい生徒もいるんだ」と思いました。前の高校の5年は長かったのですが、いい学校の5年はスーッと行っちゃうもので、「もっとやりたかったな」と思いましたね。

管理職の試験に受かって、次は島の高校に教頭要員として赴任することになりました。子どもがまだ小さかったので単身赴任で行くつもりでしたが、家族会議で「一緒に行く」となり、自宅を貸して家族で移住しました。島の学校の生徒は、サーフィンも水泳も抜群にうまくて、イルカのようにワイルドでした。悪さもするけど、島ですからそんなにたいしたこともやれません。

彼らは卒業すると、だいたいは東京の大学に進学したり就職するので、きちんとした学力や規範意識も学ばせなければいけません。島での経験は、私の人生にとって大きな収穫となりました。ところが2年のところを1年で帰ってくることになって、家は貸しているのでやむなく東京でマンションを借りたのですが、貸した家の2倍くらいの家賃がかかってしまい大変でした。

それはどうでもいいんですけど、次は定時制の高校で副校長を務めました。伝統のある学校だったのですが、私が4年目の時に定時制を閉じることになり、それで次に進学指導特別推進校の副校長として赴任しました。たいへん運動の強い高校で、そこには3年ほどいました。

次に赴任した高校で、校長としてスタートを切って、それから「校長をずっとやるのかな」と思っていたら、今度は「行政のほうにこい」ということで、都庁で学校経営支援センターの副参事をやったり、人事部の職員課で主任管理主事として、校長・副校長の人事配置や人事面接などをやっていました。

東京都で最後に赴任したのは、中高一貫教育校でした。そこに校長として4年いました。中高一貫校に来て、初めて中学教員の苦労がわかりました。「やっぱり中学で基本的なことをしっかりやっているから、高校でやれるんだな」と思いました。

38年間東京都の教師として勤め上げ、昨年退職しました。その時は、いろんな代の元生徒からお祝いをしていただきました。いの一番にやってくれたのは、最初に受け持った1年のクラスの生徒です。私とは7歳違いくらいですから、もう立派な大人になった人達がそういう会を開いてくれたわけで、教師冥利につきます。

この4月から、私立高校の校長として働いています。私立に行ってみて、やっぱり私立は違いますね。何と言っても異動がないですから、教師はとかく毎年同じようなことの繰り返しになりがちです。私は教師達に、「もっと生徒のためになることをやりましょう」とか、いろんな話をしていて、「うるさいやつがきたな」と思われているかも知れません(笑)。でもそうやって誰かが言いだせば、それがだんだん広がっていって、さらにいい学校になるのではと思っています。

今、求められている教師は?

「東京都教育人材育成基本方針」というものがあります。そこに、東京都が求める教師像が4つほど書いてあります。

まず1つには「教育に対する熱意と使命感をもつ教師」です。教師は子どもに対する深い愛情がなければいけません。教育者としての責任感や誇りを持ちながら、高い倫理観と社会的常識が求められます。これは今も昔も絶対に必要なものです。

2番目に「豊かな人間性と思いやりのある教師」です。温かい心を持ち、生徒に多面的な指導ができる柔軟な発想や思考がなければいけません。いつも生徒に声を掛け、生徒がどこでつまづいているのか、悩んでいるのか、しっかりとわかる能力が必要です。

3つめに「生徒の良さや可能性を引き出し伸ばすことができる教師」です。生徒は十人十色で、一人一人が全部違います。生徒がどんな能力や適性を持っているのかを見抜いて、それに合わせた指導が求められます。それには教科に関する高い指導力も必須です。常に自己研鑽に励み、新しいことにチャレンジする気持ちがなければいけません。

4番目に「組織人としての責任感や協調性を持ち、互いに高め合う教師」です。昔は教師の個性だけでやれていたんです。でも今は、色んなことに組織として対応していかなければならない時代です。自分の持ち分だけではなく、若手の教員を育て、オンザジョブトレーニングで経験を積ませるようなことも求められています。

さらに時代の変革につれて、学校に求められるものも変わってきています。

第1のニーズは教育力の向上です。学力はもとより、規範意識の醸成やキャリア教育の推進などが求められています。これらのニーズに対応していくためには、教員は授業だけではなく、生活指導や進路指導などオールラウンドにやっていかなくてはいけません。これまで培われてきた実践的知識や指導技術を若手教員に引き継いでいったり、「アクティブラーニング」など、新しい取り組みも必要です。

第2のニーズは、多様化・複雑化する児童生徒の問題や、保護者の要望・苦情への対応など、日常的に起きる問題に適切に対応していかなければなりません。学校は教育内容や教育方針を保護者や地域社会に積極的に発信して、課題解決のために協力を得ることも必要です。場合によっては、児童相談所や警察、保健所など、外部機関とも連携していかなくてはなりません。そのための折衝力も必要です。

面接の時に気をつけたいこと

教員採用選考についてちょっとお話します。面接には集団討論と個人面接があります。集団討論は5、6人で、与えられたテーマについて話しあっていきます。それぞれの役割を決めて話し合うのですが、その時にリーダーをかって出るとか、積極性を売っておくといいと思います。ただしそれには、人の意見を吸い上げながら最終的にまとめられる力も必要です。

個人面接で主に見られるポイントは、「この学生は教員としてちゃんとやっていけるかどうか」です。自己PRは、自分の経験してきたことや自分の良さをアピールするものですが、短い時間の中で自分の考えや意見をきちっと筋道立てて言えるかどうかも重要です。

たとえば、「どうして東京都の教員になりたいんですか?」と聞かれたら、ちゃんと答えられますか?一例として、「私は教育実習で失敗ばかりしていました。でも生徒に『先生よくがんばったね』と励まされ、その一言で絶対に教員になろうと思って、教員を目指しています」そういうのもひとつの立派な理由ですよね。

但しその時に、作ったような、経験もしていないようなことを言ったら、面接官はすぐにわかります。「失敗したけど頑張りました。」と正直に言った方が、面接官はグッとくるんですよ。自己PRでは、誠実に自分の考えや意見をしっかりと述べることが基本です。

もうひとつは、面接官と言葉のキャッチボールができるかです。それには質問にきちんと正対して、自分の言葉で簡潔に述べることです。そこで自分のトークショーが始まったり、面接官無視でしゃべり通すのはNGです。短くていいからぽんぽんと返してあげると、面接官は次の質問に行きます。そういう風に会話がスムースに流れればOKです。

「生徒が好きかどうか?」そういった点も面接では見られます。「どういう状況になっても生徒を裏切らない。私は生徒の味方です」というところが感じられるかどうか。生徒が好きということは、人間が好きということですね。面接官が、「この子は意欲がある」とか「この子にまかせたい」と思うかどうかです。

要は面接で、別に素晴らしい回答とか優等生的な発言は期待していません。皆さんの今までの取り組みや、これからどう情熱や意欲を持って教師としての道を歩んでいきたいのか、そういう生の声を聞きたいんです。「失敗してもそれを挽回してもっと伸びていけるな」と思われれば、面接官は丸印をつけます。

そして、大学ではやるべきことをしっかりやっておいてください。「自分はやりきった」という思いで面接にいくのと、中途半端で面接に行くのでは全然違います。

1回で試験に受かれば上出来ですが、だめだったからと言ってそれで断念するようだったら、教員にならないほうがいい。現役で落ちても、2年3年たつとだいたいの人は教師になっているので、「絶対に教師になる」という強い志を持つことです。そういう人だけが、教師としてやっていけると思います。

教員になって心がけたいこと

最後に、皆さんが晴れて教師になった時に、心がけるべきことをお伝えしておきます。まずは3つの「ション」があります。最初に「ミッション」。これは使命感です。教師として何を生徒に伝えたいのか、そういう使命感を持つことです。次に「パッション」。情熱です。何事にも情熱がないとだめですよね。最後に「アクション」。口だけで生徒は動きません。教師が動くことによって生徒はついてきます。

次に3つの意識を高めてください。まずは「当事者意識」です。任せられたことは自覚と責任感をもって最後までやり抜いてください。次に「課題意識」。なんでもイエスじゃなくて、「なんかこれおかしい。違っているんじゃないかな?」そういう疑問を持てるか、課題発見能力とも言います。そして「危機意識」。いつも「大丈夫だろう」じゃなく「もし今これが起こったら?」と最悪を想定しておくことで、何が起きても対応できます。

そして3つの「ない」があります、これを、「三ない主義」というのですが。まずは「逃げない」。どんな生徒に対しても逃げないで、ちゃんと向かい合ってとことんわかるまで説得できるか。次に「ぶれない」。「さっき言っていたことと違うじゃん」と言われないような、一貫性が大事です。最後に「嘘つかない」。一番大事なのは、誠実であることです。

何か質問があればどうぞ。

【学生】面接の時、気をつけなければいけないことはありますか?

「こういうことを言わなければいけない」とか、暗記はしないことです。キーワードだけ覚えておくんですよ。例えば「なぜ東京都を受けるのか?」と聞かれた時、「東京都の教育の素晴らしさ」をキーワードにしておいて、「東京都の教育は全国に先駆けていろんなことをやっているので、そこの一翼を担いたい」とか答えると、面接官は「あ、さすがだな」となります。そのように想定問答を作って、キーワードをあげておくといいですよ。面接の場では自分の言葉で語ってください。全部暗記しようとすると緊張もするし、頭が真っ白になって絶対にボロが出ます。

【学生】体育の教師として、インターハイなどの実績は必要ですか?

私は、今まで、公立でそういうエキスパートの先生には、あまり会ったことはありません。ただ、今私がいる私立では、担任もやりながら部活の生徒達をインターハイにも連れていく体育教師もいるので素晴らしいと思います。ただ自分がインターハイに行ったからと行って、教え子を連れていけるかどうかはわかりませんね。

【学生】面接で、赴任先の希望は出せますか?

一応は聞きますけど、それで印象を悪くしている人もいるので、自分で「絶対にここに行きたい」とか「定時制だけはいやです」とかは言わない方がいいですね。逆に、「どこでも行かせていただきます!」って言うくらいだと、「いいね!」ってなるので、それぐらいの覚悟を持って面接に臨めば、きっといいところに行けますよ。

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