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スポーツ業界で活躍する! -「選択と集中」攻めの姿勢を忘れず自分の未来を切り開く-

坂下 英雄さん

東海スポーツ 代表取締役社長・(公財)日本スポーツ施設協会 公認スポーツ施設管理士 ・(法)日本スポーツ用品協同組合連合会 理事


今回お招きしたのは、茨城県を中心に幅広く事業を展開されている東海スポーツ代表取締役の坂下英雄さんです。日本スポーツ施設協会公認スポーツ施設管理士や、日本スポーツ用品協同組合連合会理事なども務めながら、スポーツ業界で約40年間にわたって活躍されてきたご経験をもとに、就職活動やその後のキャリア形成に活かせるさまざまなお話をお聞きしました。当日は、スポーツ科学科の大塚雅一教授が司会進行を務めました。
<2022.11収録>

まずはスポーツ業界の全体像を知ることからスタート

私は日本体育大学を卒業後、家業であるスポーツショップを継いだ一方で、1980年代にはナイキのシューズプロモーションを推進する外部企画員なども経験してきました。当時のナイキが取り扱っていたのは、陸上競技やテニス、バスケットボール用のシューズが中心でしたが、サッカー事業を進めていくために、小学校から大学までサッカー経験のあった私に声がかかりました。ただ、バブル経済が崩壊すると、かつては輸入商社が扱っていた中の一つだった海外のスポーツブランドが株式会社ナイキジャパンやアディダスジャパン株式会社、プーマジャパン株式会社として独立するなど、スポーツ業界は大きく様変わりして現在に至っています。

一方で日本のスポーツメーカーに目を向けると、東京2020でゴールドスポンサーになった株式会社アシックスには、世界をターゲットとするグローバル本社という事業所とアシックスジャパン株式会社という日本向けに販売している関連会社があります。売上構成比は、海外が約75%で、日本国内が全体の約25%です。これに対して、ミズノ(美津濃株式会社)の売上構成比はアシックスの逆。海外が約25%で、国内が約75%です。総合的な売上高ではアシックスが突出していますが、日本国内での売上げはミズノが上回っています。

こうしたメーカーのほか、スポーツ業界にはスポーツショップやスポーツクラブ、スポーツメディアなど、さまざまな業種・業態がありますが、スポーツ用品に関しては、まず商品をつくるメーカーがあり、代理店と呼ばれる問屋を経由して小売店に商品が並びます。この小売店には大型店もあれば、サッカーや野球をはじめとする専門店もあります。また、最近では代理店を経由せずにメーカーから小売店に直接商品が流れるケースや、メーカーが直接オンラインで消費者向けに販売したり、直営店で販売したりするケースもあります。こうしたスポーツ業界を見渡した上で、みなさんには自分がどんな仕事をして、どのようにスポーツに関わっていきたいのかを考えてほしいと思っています。

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勇気をもって総合職にチャレンジしてほしい

ここからは具体的な就職活動についてお話をします。例えば、アシックスやミズノのような大手のスポーツメーカーの場合、入社するためには総合職と一般職があり、将来の幹部候補となるのが総合職での採用です。ここで残念なのが、体育大学の学生が、ほとんど総合職にチャレンジしないことです。せっかく体育大学を出ているのに、最初から一般職でエントリーしてしまうのはもったいないと感じるばかりです。

確かに就職活動はエントリーシートに始まり、履歴書などの書類審査や適性試験などを経て、面接も担当者レベル、部長クラス、最終の役員面接まで多くの場合3回行いますので、これらをクリアしていく大変さはあります。しかも、例えば5人グループでのディスカッションが課され、協調性やコミュニケーション力がチェックされるようなケースもあります。その際、リーダーシップを発揮できたとしても、とにかく主導権を握って目立てばいいわけではなく、周囲に気を配れているかどうかも見られます。また、商品開発を想定したグループワークなどが課されれば、コスト意識も評価の対象になります。

さらには、面接に向けて志望動機を丸暗記する学生もいますが、「今日の朝食は何を食べましたか?」など、想定外の質問をされることもあります。その際、「本当は食べていないけど、食べたと言った方が規則正しい生活を送っていると思われるのではないか」など、葛藤も生まれるのですが、そこで問われているのは動揺することなく冷静に対応する力です。企業はさまざまな角度から学生の資質を判断しますので、総合職が狭き門であることは間違いありません。

一方で、面接では多くの男子学生が抽象的に「何でもやります!」と答える傾向があるそうですが、女子学生は「これがしたい。会社のこれが好きなのでここに配属されたい」と、具体的に話せる学生が多いといいます。男性は無難な回答をしがちな一方で、女性はキレの良い回答ができるため、企業がまともに選考をしたら、ほとんど女性しか受からないともいわれるほどです。社内のパワーバランスでどうしても男子学生の内定者の方が多い企業でも、評価ポイントだけを見ると、女子学生の方が遥かに高いのだと多くの企業から聞いています。

スポーツ業界では、女性目線でなければわからないことや、女性だからこそ実現可能なデザインや商品開発もありますので、女性を必要としている企業は決して少なくありません。せっかくスポーツに打ち込んできて知識もあり、ガッツもあるのですから、ぜひ自信と勇気を持って挑戦してもらいたいと考えています。

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部活動での挨拶の習慣も強みになる

就職活動でスポーツ業界を目指すとはいっても、メーカーや商社、問屋、小売店、トレーナー、指導者、メディアなど多種多様ですし、メーカー志望だとしても、商品開発や販売促進など、さまざまな職種があります。そこで必要な対策が、「選択と集中」です。希望職種を絞り込んだ上で、採用されるために何が必要かを考えてアクションを起こすことが重要です。対策としてできることはいくらでもありますので、自分で探して努力することが大切です。例えば、インターンシップに参加して実際に企業の取り組みを知ることもその一つ。希望する分野に進んだ卒業生とのコネクションをつくって、情報収集することもおすすめです。それで自分のイメージと違うと思えば、方向転換すればいいだけのことです。

部活動が忙しいこともあって、特にスポーツ系の企業のインターンシップに参加している学生は多いとはいえないのですが、企業は部活動に所属している学生を高く評価する傾向にあります。IT社会とはいっても、コミュニケーション力を筆頭にアナログな部分はどこの企業も重視しています。部活動に所属して、基本的な挨拶がしっかりできる学生は、それだけでも部下にしたい人材になるのです。とりわけ体育大学の学生は挨拶が徹底されていて、礼儀やマナーもわかっていることが多いですので、そこは大切にして、上級生になっても1年生のときの気持ちを忘れることなく、部活動でも日々の生活でも実践してほしいですね。

自分の世界観・歴史観・倫理観・人生観・使命観を見つめ直す

就職活動で意識しておいてほしいのは、「SDGs」の「S」でもある「サステナブル」という視点です。これは「継続性」という意味であって、自分が志望する業種・業態が20年後30年後でも残っていくかどうかは意識しておくといいでしょう。ただし、かつては一度就職したら永久就職ともいわれる終身雇用制度が日本企業の特徴でしたが、近年では新卒で入った企業でスキルアップしながら人脈を広げ、ヘッドハンティングされて別の会社に入り、そこでまた違う仕事に興味を持って転職したり起業したりすることも当たり前になってきています。

もちろん最初に入った会社に骨をうずめたいという昔ながらの考え方も尊重されるべきですが、どんな職場であっても自分のスキルは、就職後も向上させていくべきものです。その点、社会人よりも時間的に余裕のある学生のうちに、将来に向けて自分の強みになる知識や技術を身につけて、社会人としてスキルアップしていくための土台づくりを進めることが大切です。社会に出てからも迷いは生まれますし、何が正解かもわからない中で、紆余曲折しながらも進んでいけばいいのですが、まずは大学での4年間を無駄なく有意義に過ごしてほしいと思います。その際、将来に向けて考えてみてほしいのが、「世界観」「歴史観」「倫理観」「人生観」「使命観」という5つの「カン」です。

■世界観
地球があり、日本があり、関東、東京、世田谷区、そして日本女子体育大学で所属している学科や部活動において、自分自身がどのような立ち位置でどのような役割を担っているのかを客観視してみる意識です。

■歴史観
過去に自分はどういう場所でどのように育って現在につながっているのか。それを踏まえて5年後、10年後は何をしているのかを考える姿勢です。

■倫理観
何が良くて何が悪いのかという善悪に関する判断基準です。道徳観でもあって、人としての基本です。この倫理観をしっかりと持っている必要があります。

■人生観
自分にとって何が大切かという哲学です。家族なのか、仕事なのか、趣味なのか、彼氏なのか、旦那なのか、子どもなのか。人それぞれ違いますが、自分が何をしていけば幸せだと思えるかを見つけていくことが大切です。

■使命観
読んで字のごとく、命を使って何をするのかということです。自分はなぜこの世界に生まれ、将来はどのような仕事をして社会に貢献していくかを考える意識です。

この5つの「カン」を自分なりに一つひとつ考えていくことをおすすめします。

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夢を叶えるために、マイナス思考から抜け出そう

人生観や使命観を考えていくと、みなさんも大小さまざまな夢が思い浮かぶと思います。もちろん誰もが夢を叶えられるわけではないですし、辛いこと、苦しいこと、悲しいこともあると思います。マイナス思考で弱音を吐くこともあるでしょう。それでも、「私はこれを目指す!がんばる!大変だけど勉強する!」と心が決まれば弱音を吐かなくなり、夢を叶える可能性も高まっていくものです。あきらめてしまう人は弱音を吐くだけで終わりますが、夢を叶える人は、マイナスなことを言わなくなるものです。弱音を吐くの「吐」という漢字からマイナス、つまり右下の横棒をなくすと、「夢が叶う」の「叶」になります。マイナスなことを言わなくなれば叶うのです。

さて、ここでどなたか夢とその理由を聞かせてくれる方はいらっしゃいますか?

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【学生1】
海上自衛隊に入ることです。東日本大震災の際に、海上自衛隊の1人の女性隊員が、女性にしか分からない衛生面のケアなど含めて被災者に寄り添ったことを本で読み、小さい頃から水泳など水に関わるスポーツに取り組んできた私もそういう存在になりたいと思いました。

【坂下さん】
素晴らしいですね、女性だからこそ理解できて行動できることがたくさんありますので、女性の良さと男性の良さが一体化することが理想だと思います。それは企業でも同じですので、性差別が解消されていくことも視野に入れながら、「これは男性の職種だから」という固定観念は捨てて、夢があれば決してあきらめないでほしいと思います。例えば男性の割合が多いパイロットにチャンレジする女性もいるわけです。

ほかに何か質問があれば遠慮なく聞いてください。

【学生2】
スポーツ業界でのインターンシップでは、どのような内容が多いのでしょうか?

【坂下さん】
決まった内容はなく、時期によっても異なりますが、例えば学生を受け入れている時期に、大きなスポーツイベントを開催していれば、そのサポートをすることもあれば、日常的な業務のサポートに入るケースもあります。それは入社後も同様で、「これだけ」ということはありません。メーカーに入れば、状況に応じて納品を手伝うこともあれば、会議に呼ばれて商品開発やイベントに向けてアイデアを求められる機会もあるかもしれません。

【学生3】
就職活動の面接で「○○がしたい」とはっきり言った方がいいというお話がありましたが、男性のように「何でもやります」という意気込みが評価されるという意見も聞いたことがあります。そう考えると、「何でもやります!例えば...」と意気込みに加えて具体例も示せれば企業の印象に残りやすくなるでしょうか?

【坂下さん】
「何でもやります!」というアピールが、前向きな意気込みとして感じてもらえればいいのですが、「無難な回答」「当たり障りのない回答」だと相手が感じてしまう危険があります。「何でもやります」という心意気は必要ですが、具体的に答えられないから「何でも」なのだと相手が思ってしまったらイメージは悪くなります。もちろん、「私は商品のデザインがしたいです!」と言っても、経理や総務に配属されるかもしれませんし、海上自衛隊に入って船に乗りたいと思っても通信室に配属されるかもしれません。具体例を出してもその部署に行けるとは限らないのですが、学生の素直な思いとして聞いてもらえますし、そこまで考えているという点で、「本当にしたいのだろうな」と意気込みを感じてもらえるのだと思います。

【学生4】
スポーツ業界に限らず、資格は取っておいた方がいいのでしょうか。

【坂下さん】
これからの時代はIT関連の資格は実務で活かせますし、たとえ資格がなくても、エクセルをはじめとしたパソコンスキルは高めておいた方がいいですね。また、例えば福祉関係の仕事に就きたいと思えば、養護教諭や社会福祉士などの資格がありますので、自分が目指す業種・業界に関わる資格取得に向けた準備は、学生時代からしておくといいと思います。

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働き方も職業選択の判断材料に

最後になりますが、就職は一つの選択肢になるものの、将来的には自分たちで何か事業を立ち上げる起業を視野に入れて行動を起こすことにも価値があると思います。近年は、いわゆるベンチャー企業のように、若い世代がIT企業を中心に立ち上げていますし、これからは「入社」以外の働き方を検討してもいいかもしれません。

また、コロナ禍でテレワークが定着し、コロナ収束後もテレワークを継続させていこうとする企業も少なくありません。業種・業態によっては、「会社に行って働く」という考え方から、自宅でもどこでも仕事ができるという考え方に変化しているのです。その分、同僚と対面でコミュニケーションを取る機会がほとんどない"職場"もありますので、そうした働き方も職業選択の際の判断材料にするといいでしょう。

本日はスポーツ業界のお話をさせていただきましたが、例えばスポーツクラブにトレーナーとして入社した後、生命保険会社に転職するようなケースもあります。日常的にスポーツやウォーキングをして健康増進に努める人は保険契約を安くするという健康増進型保険のような商品が増えているように、保険の分野でも健康に関する専門知識のある人材が求められているからです。

また、スポーツメーカー以外の企業でも、例えば食品会社や医薬品業界の企業でも、健康志向の商品開発を進めていますし、トレーニング機器のメーカーや輸入商社や、スポーツイベントの企画会社などもありますので、就職活動の選択肢に入れてみてもいいと思います。本日はどうもありがとうございました。

【大塚先生】
私は夏にスポーツ関連の展示会にお邪魔したのですが、スポーツウエアからトレーニング機器、サプリメントまで、実に多くの企業が出展していました。その中には、先ほど坂下さんからご説明のあったベンチャー企業も出展していたと思います。学生のみなさんには、今日の話を就職活動や人生設計のヒントにしていただいて、ぜひ自分の将来に向かって積極的に努力してもらいたいと思います。坂下さん、本日はどうもありがとうございました。

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