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常識を打ち破るサービスの創造 -スポーツイベントのマネジメントとスポーツ施設の管理運営-

金子 健さん

株式会社協栄 営業本部PPP事業部


今回お招きしたのは、株式会社協栄で営業本部PPP事業部長を務め、東京2020オリンピック・パラリンピックでは複数のスポーツ施設の管理業務に関わった金子健さんです。警備や清掃、利用者対応といったスポーツ施設の管理・運営や、スポーツイベントなどの事業内容から、スポーツ施設管理の歴史、今後に向けた課題まで、幅広いお話をお聞きしました。当日はオンラインで開催し、約30名の学生が参加、健康スポーツ学科の芳地泰幸准教授が司会進行を務めました。
<2022.07収録>

トップアスリートが集結する施設も管理

株式会社協栄の金子です。本日は「常識を打ち破るサービスの創造」という派手なテーマですが、当社はスポーツ施設の清掃や維持・管理から始まった、どちらかというと地味な会社です。創業は、初めて東京オリンピックが開催された1964年です。当時はスポーツ施設が次々と建設されていった時代でした。

この会社で、私はPPP事業部長を務めています。PPPとは「パブリック・プライベート・パートナーシップ」、日本語だと「官民連携」といわれる領域の担当部署です。みなさんが思い浮かべるスポーツ施設のほとんどが、国や地方自治体などの「官」が管轄する公共施設なのですが、かつて民間企業は、公共施設の維持・管理はできても、運営には携われませんでした。その後、この20年で法改正が進み、運営もできるようになったため、当社にも官民連携のプロジェクトを進めるPPP事業部があります。

当社が現在管理している施設には、国立スポーツ科学センターや、ナショナルトレーニングセンターがあります。創業から11年後の1975年に、国立スポーツ科学センターの前身である国立西が丘競技場の管理業務を受託して以来、途切れることなく管理を行ってきました。現在は「ハイパフォーマンススポーツセンター」としてオリンピック選手を養成する施設となっており、運営はJOC(日本オリンピック委員会)が行い、当社は清掃や警備員の配置、宿泊棟の管理といった業務を担当しています。フットサル場やテニスコートなど、一般開放されている部分に関しては、当社で運営も行っています。

国立代々木競技場でも同様に、当社が管理と一部の運営を受託しています。バレーボールやバドミントン、卓球といったスポーツの大会で業務実績を重ね、全国の競技団体とのつながりもできたため、バレーボールなどの地方大会のお手伝いをさせていただくこともあります。

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施設管理からイベント運営にも事業を拡大

全国でスポーツ施設の管理を進めていく中で、当社ではイベント事業にも業務を拡大させてきました。今でこそ全国各地でコンサートが開催され、専門のイベント会社などもありますが、かつてはコンサートのような大規模イベントは珍しかった中で、1977年に開催された「国際プロフィギュア」のイベントに携わったことが転機になりました。

その2年後には、西武球場(現:メットライフドーム)から、施設管理業務と球場内で行われるイベント業務を合わせて受注しました。施設管理を受注した通称「箱づき」の企業がイベントも担当する時代だったのですが、少しずつイベント専門の会社ができていく中で、当社も「箱づき」の業務だけではない多様な施設でのイベント事業に着手し、当社で管理していない施設でのイベント業務も受注できるようになりました。

近年では、東京2020オリンピック・パラリンピックが最も大きなイベントです。当社が管理や一部で運営を担当したのは、「国立代々木競技場」「東京国際フォーラム」「カヌースラロームセンター」「海の森水上競技場」「横浜国際競技場(日産スタジアム)」の5つの施設です。

中でも一番多くのスタッフを手配したのは日産スタジアムで、当初の予定では1日300人を配置する必要がありました。この施設では普段から清掃業務を担当しており、2019年のラグビーワールドカップなども経験したのですが、これまではイベントの運営企業が手配したスタッフに清掃業務もお願いするなど、スタッフのやりくりが可能でした。当社が担当する清掃業務で300人が必要ならば、そのうち100名は運営企業から出してもらうことができたのです。しかし、東京2020オリンピック・パラリンピックでは運営側のスタッフはボランティアのため、清掃業務との掛け持ちはNG。結果的には無観客での開催となり、実際に稼働したスタッフは少なくなりましたが、準備したIDカードは約1000人分にのぼりました。

官民連携にはさまざまなカタチがある

さて、ここで公共施設の管理に関わる歴史や制度を整理しておきます。
まず、1947年に地方自治法が制定された頃は、公共施設の管理はすべて地方自治体が自前で行っていました。警備は職員が順番で行い、清掃は職員の家族などが行っていたといいます。その後、1963年に地方自治法が改正されると民間企業への発注が始まります。当社の設立は1964年ですし、「セコム」や「ALSOK」といった警備サービス会社ができたのもこの前後で、公共施設のメンテナンスや警備業務を手がける業界が育っていきました。1991年の地方自治法改正では、独立行政法人や第3セクターが生まれ、地方自治体の業務を受注して施設管理を行うようになりましたが、依然として民間企業が公共施設を運営することは許可されませんでした。そして、2003年に指定管理者制度ができたことで、業務委託で民間企業が運営もできるようになり、現在ではさまざまな官民連携の方式があります。

■包括民営委託
公民館や公会堂、体育館など、自治体が保有する施設の修繕業務をすべて1社に任せたり、ある施設内で必要な清掃や警備、設備管理などを一括で1社に任せたりする方式。さまざまな包括の仕方がありますが、民間委託が行われています。

■指定管理者制度
公共施設での利用料金の徴収をはじめ、運営そのものを民間企業に任せる方式。現在は、自治体が保有する体育館やプールなどのほとんどが、指定管理者制度で運用されています。

■民設民営
施設用地となる土地は地方自治体が提供し、施設自体は民間企業が建設する方式。2023年の開業を予定しているプロ野球・北海道日本ハムファイターズの新球場が、この方式に該当します。

■PFI
施設の建設も含めて20年前後の運営を民間企業に発注する方式です。建設から運営まで幅広いノウハウが求められるため、複数の企業がチームになって参画します。この方式のひとつのメリットは、運営・維持・管理を行う企業が、設計や建設を行う企業に具体的な提案ができる点にあります。

そして、このPFIと並んで近年注目されているのが、「コンセッション方式」です。

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コンセッション方式での特別目的会社は期待大!?

「コンセッション方式」は、完成している施設の持ち主はそのままで、運営権を民間企業に売却する方式です。一定の制約はあるものの、利用料金や使い方は民間企業に委ねられます。このコンセッション方式が採用された大型案件の第1号が、東京2020オリンピック・パラリンピックの会場となった有明アリーナです。運営権の売却先となった代表企業は株式会社電通。そのほかに株式会社NTTドコモなどが構成企業として名を連ね、20年間の運営権として約94億円を東京都に支払うことを提案し、落札しました。

コンセッション方式での第2号は、愛知県新体育館です。こちらは「デザインビルドトランスファーコンセッション」という方式で、受注側の企業チームが設計して、建築して、所有権を移転させてからコンセッション方式で運営するというものです。多額の建築費用が必要なため、愛知県から企業チームに約181億円が支払われ、そこから建築費用などに割り当てますが、運営で生まれた利益は企業側の手元に残ります。

企業チームがコンセッション方式で受注した後、実際に施設の運営に携わるのはSPCと呼ばれる特別目的会社です。従来の指定管理者制度でも特別目的会社が設立されたことはありましたが、その多くはペーパーカンパニーでした。その点、コンセッション方式では実体を持つ組織化された法人として特別目的会社が設立される見込みのため、みなさんが就職するチャンスもあるかもしれません。これまでスポーツ系の大学生の受け皿にもなっていた独立行政法人や第3セクターなどの縮小が進む中で、コンセッションによって誕生する特別目的会社は、学生の新たな受け皿としても期待できます。

一方で、日本のスポーツ施設の多くでは老朽化が進んでいることも確かです。文部科学省の調査によると、日本全国にある体育館などのスポーツ施設は、1969年には985ヵ所で、1975年になると2129ヵ所、1996年にピークとなる9206ヵ所に達しました。スポーツ施設の"寿命"に関するデータはありませんが、鉄筋コンクリート造の施設は、会計法上の減価償却期間は47年とされています。つまり、47年が経過すると財産価値がなくなると考えられており、今から47年前は1975年。かつて急増していったスポーツ施設は、老朽化や人口減少も相まって、今後減少の一途をたどることが考えられます。そんな中、新たに建設されるスポーツ施設は、そのほとんどが多機能複合型の施設となっています。

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進化する体育館。成功のカギはスポーツマネジメント

多機能複合型施設の筆頭として紹介したいのは、アメリカのアトランタにある「ステートファーム・アリーナ(フィリップスアリーナ)」。8日間で7つのイベントが開催されるほどの大きな体育館です。体育館とはいっても一般的な木製の床ではなく、基本はコンクリートの打ち放し。開催される競技内容やイベント内容に応じて専用のフロアを敷き詰めて使用します。同様の施設は日本国内でも増えつつあり、有明アリーナや、2024年度に香川県で完成予定の新たな県立体育館もそのひとつです。コンクリートの床であればトラックやフォークリフトも入れますので、コンサート用のステージなども短時間で設営することができます。

ただし、懸念点もあります。例えば、そこでバスケットボールの試合をするとなると、そのための専用の床を張り、試合後に撤収し床を剥がすまでの作業にコート1面あたり約60万円の費用がかかります。コンサートなどの大型イベントや、集客力のあるスポーツ大会ならその費用を捻出できますが、例えば中高生のバスケットボール大会を開催するとして、3面分なら約180万円が必要になります。では、その180万円は誰が負担するのかという問題が出てくるのです。日本では、集客力を高める仕組みづくりや、そのための演出方法の高度化などは遅れており、公共施設でも「いかに稼ぐか」を意識したスポーツマネジメントが求められているのです。もちろん、当社で管理・運営しているスポーツ施設も例外ではありません。

国内初となるスポーツ・レジャー施設の運営に挑戦

当社のPPP事業部では、東京2020で使用されたカヌー・スラローム会場の管理・運営を行うことになり、2022年7月に「カヌー・スラロームセンター」として再オープンしました。3台の強力なポンプを使い、大量の水を一気に流すことで人工的に川をつくり、カヌーのスラローム競技のほか、ラフティングなどのレジャーを楽しむことのできる国内初の画期的な施設です。ただし、ポンプを回すにはそれなりの経費が掛かります。「いかに稼ぐか」を念頭に置いたマネジメントによって、コストを上回る利益を出すことがミッションです。

かつては、「施設の設置目的のためであれば、税金の投入も仕方がない」といった風潮もあったのですが、現在は少しでも受益者である施設の利用者に負担してもらい、税金の投入量を減らすことが求められています。税金を支払う側の地域住民も厳しい目で見ていますので、公共施設でも「稼ぐこと」からは逃れられないのです。

そこで当社では、世界を転戦していたカヌー選手を雇って広報を行ったり、施設のプロモーションビデオも制作しました。今まではしたことのない業務に挑戦しており、"地味"だと思っていた施設管理業務の常識を覆すような取り組みです。

また、こうした取り組みと並行して、官民連携の相手として「官」に選ばれるためには、社員が働きやすい環境づくりも重要になってきています。当社には子育てをしながら支店長として活躍している女性社員もいますが、まだまだ取り組みとして実現できていません。「女性活躍推進法」に関連する「プラチナえるぼし認定」や「えるぼし認定」、「次世代育成支援対策推進法」との関係では「プラチナくるみん認定」や「くるみん認定」、さらに「青少年の雇用の促進等に関する法律」に基づく「ユースエール認定」といった認定を受けていると、PPP事業を選定するコンペティションの際に加点評価される案件も出てきており、各社取り組みが加速していると思います。

最後になりますが、私は社会保険労務士資格も保有している関係で、採用や労務管理に関する話を聞く機会が多くあります。例えば、ある大学教授は「女性の感性を受け入れない会社は流行らない」「女性が活躍できていない会社は、中年男性が生きやすい世界をつくっている会社。そんな会社が世の中で認められるわけがなく、若い社員も活躍できていない」と話していますので、学生のみなさんも就職活動の際に参考にしてみてください。

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【芳地先生】
どうもありがとうございました。学生にとっては授業でも日常生活でも、また、スポーツプレーヤーとしても普段は聞けないお話ばかりだったと思います。民間企業のノウハウやマネジメント力が公共施設にも活かされるようになって制度面では進化していますし、ハード面でも多機能複合型施設をはじめとした「箱」はいいものができています。今後はスポーツマネジメントの力で賑わいを創出し、地域活性化につなげていくような、言わばスポーツが自分の足で歩けるような興行面・運営面でのソフトの進化が課題ですね。

〈質疑応答①〉
【学部生】
有明アリーナのコンセッションでは、NTTドコモなどが参加したとのお話でしたが、それぞれの企業の強みを活かすために多くの企業が集まるということでしょうか。

【金子さん】
NTTドコモの場合、施設内でのネットワーク環境の構築は必要ですし、座席から注文して飲み物や食べ物が届くようなシステムやサービスの導入を想定しているのだと思います。ただ、おそらくそれだけではなくて、会場に足を運んでまでエンタメやスポーツを見ようとする層から得られる情報の価値が、ものすごく大きいのだと思います。他の施設でも、周辺の住宅を販売したい不動産系の企業が代表企業に名乗り出るケースもありますし、スポーツ施設の管理・運営だけではないさまざまな意図をもって参画しています。

当社でも、さまざまな企業と「いつどこにどんな施設ができそうだ」といった情報交換を定期的に行っています。例えば、民間のスポーツクラブの運営企業は、コロナ禍で施設の維持費などの経費はかかる一方で会員が減り、店舗の業績が芳しくない状況のため、公共施設への興味を高めて参入機会をうかがっているのです。

そうなると、今後は当社のような企業から、さまざまな企業に人材が引っ張られていく時代になると思います。建築会社やコンサル会社、広告代理店なども、公共施設の管理に長けた人材は少ないですし、外部から引っ張ってくるしかないと思います。

【芳地先生】
ノウハウを持つ人材のヘッドハンティングが進むということですね。では、学生時代に取り組むべきことについて、何かアドバイスをいただけますか。

【金子さん】
当社で運営する「カヌー・スラロームセンター」のように、「儲かること」が要求されますので、大切なのは発想力。「こんなことをすると儲かるのではないか」という発想力や提案力を磨くことが大切だと思います。

【芳地先生】
これまでの常識を打破してイノベーションを起こし、日本のスポーツ文化を発展させるために新たな価値をつくること、新しい時代をつくっていくことが大切ですね。

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〈質疑応答②〉
【大学院生】
車いす生活者の声を参考にして、車いすでも移動しやすい構造にするなど、施設づくりでの工夫などがあればお聞きしたいです。

【金子さん】
東京2020オリンピック・パラリンピックでは、競技場周辺の石畳の部分をフラットにするなど、古い施設でもバリアフリー化が進みました。カヌー・スラロームはパラリンピックの競技にはなっていないのですが、日本障害者カヌー協会に施設チェックをお願いし、障がい者の方々にも使いやすい施設を目指しています。
話が変わりますが、新規に建設されたオリンピック施設の屋根のつくり方も注目を浴びました。例えば、大林組が建設した「アクアティクスセンター」は、低い場所で屋根をつくってから、4本の柱で持ち上げて屋根にする工法。竹中工務店が手がけた「有明アリーナ」は、足場のある場所で屋根をつくり、1枚つくるごとに押し出す工法でした。体育館は中央部の空間が広いため工法的に難しいのですが、きちんと足場のある安全な場所でつくってから移動させるという世界的にも珍しい工法でした。

また、屋根つながりですと、最近では多くの体育館が、屋根に「吊り物」ができるように補強されて進化しています。その結果、例えば「センターハング」という方法でカメラを設置し、試合の様子を真上から撮影できるようになり、コンサートでも大小さまざまな吊り物を活用できるようになっています。音響にしても、スピーカーを吊れば上から音を出せますので、演出の幅が広がるのです。

【芳地先生】
学生のみなさんは、ぜひ今日お聞きしたさまざまなお話を参考にして、今後の学生生活や就職活動に活かしていってください。金子さん、本日はどうもありがとうございました。

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