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教育の原点である特別支援教育

尾崎 ひかるさん

東京都立武蔵台学園 教諭


令和7年12月4日のキャリアカフェにお招きしたのは、2025年3月に健康スポーツ学科を卒業した尾崎ひかる先生です。在学中は陸上競技部で主務を務めながら、須甲先生の研究室に所属し、特別支援学校と中高保健体育の2つの教員免許を取得しました。当日は、東京都立武蔵台学園での取り組み内容を詳しく紹介していただきました。司会進行は、健康スポーツ学科の前島光教授が務めました。
<2025.12収録>

特別支援学校と中高保健体育の免許を取得

私は現在、特別支援学校である東京都立武蔵台学園の小学部1年生を担当しています。特別支援学校の教員を目指した理由は、いくつかあります。私には全盲のいとこがいて、目が見えないながら、とても上手にピアノを弾く姿に幼い頃から感銘を受けてきました。私が通っていた小学校には特別支援学級があり、一緒に多くの行事を経験してきました。担任の先生も、支援学級の児童との一体感を大事にされていて、「こういう先生になりたい」と思ったのです。ニチジョでは特別支援学校の免許と中高保健体育の教職課程を学び、教員採用試験は特別支援学校の中高保健体育枠で受験をしました。

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都立武蔵台学園は東京都府中市にあり、基本的には知的障害部門です。病弱部門もありますが、隣接する総合医療センターという病院内に設けられた分教室で、病弱教育が進められています。東京都の場合、「特別支援学校」という名称だと障害種が1つですが、名称に「学園」があると2つの障害種に対応し、例えば同じ府中市にある「けやきの森学園」は、知的障害と肢体不自由の2つに対応しています。

本校には知的障害と発達障害の生徒が通っています。小学部・中学部・高等部とあり、児童・生徒数が多い分、教職員も約120人と多く、広い職員室で毎日全体朝会をしています。その後に小中高に分かれた打ち合わせと、学年別の打ち合わせを行い、情報共有を進めます。チームで子どもたち見守るために、教員間で密にコミュニケーションを取り、それによって教員同士の信頼関係もできて、働きやすさにもつながっています。また、1年生の担当教員は9名で、全員が女性です。小学部は女性教員が多く、小2も全員が女性教員です。ただ、年齢が上がると子どもたちの力も強くなりますので、中学・高校になると男性教員の方が多く、しかも中高体育を専門とする教員が多い状況です。

保健体育の教員は特別支援学校で重宝されていて、本校にはニチジョ出身者が私を含めて3人。子どもたちは動きが多く、私も教室を飛び出した子を走って追いかけることがあり、そこは体育の先生が大いに活躍できます。子どもたちの動きが読めず、教員が怪我をするリスクもありますが、それでも子どもたちを守っていく、教育で守っていくという意識を大切にしています。

なお、私は中学部か高等部への配属かと思っていましたが、特別支援学校の免許があれば小学校にも対応できるため、小学部に配属されました。担当している小学部1年生の児童数は22名で、基本的に1クラス5名の4クラスです。ただし、行動面で支援が必要な児童もいますので、1学級2名のクラスが1つあり、私はこの2名のクラスを担当しています。

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小学部1年生の日々の取り組み

ここからは、小学部1年生の時間割に沿って日々の取り組みを紹介します。

■「日常生活の指導」「体育」
登校すると、まずは「日常生活の指導」が35分間あります。教室に入り、カバンから水筒などの荷物を出したら、それらを所定の位置に置くことも"勉強"です。また、登校着と校内着があり、学校に着くと体育着に着替えます。"前後ろ""表裏"を正しく着る練習中の子もいますので、着替えも勉強です。

教室には、水筒や着替えを置く個々のカゴがあり、そこに顔写真や色つきのシールを貼っておくことで、どのカゴに自分の荷物を入れるかがわかります。例えば「おざきひかる」と書いてある黄色のシールが目印になって、ひらがなが読めなくても、黄色を見て自分で入れられます。それぞれ認識・認知機能が違いますので、色で判断する子、顔写真で判断する子がいて、字が読める子は字を読んでカゴに入れます。

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また、尿意や便意を感じられない子や、オムツが外れない子もいますので、トイレトレーニングも朝から行います。子どもたちは一つひとつの行動に時間がかかりますので、時間をかけて指導します。その後は「体育」です。ホールのような大きい室内で、音楽を聴きながら全身を動かすリズム運動などが30分間ほどあります。


■「国語・算数」
その後は、45分間の授業が2コマあります。「生活」「国語・算数」「音楽」「図工」「体育」「自立活動」があり、「国語・算数」はクラスごとに授業を行いますが、それ以外は学年全体の22人で授業を受け、教員も複数が入ります。私は「体育」のほか、「国語・算数」も交代で担当しています。その際、特別支援学校では個々に応じた課題を与えることに焦点を当てており、教室内には一人分ずつ、引き出し式のラックを用意しています。子どもたちは、その中に入っている課題に順番に取り組み、例えば、国語のひらがなの課題では、「『あ』はどれかな?」といったマッチングをさせる作業などを行います。字が読めるようになってきたら、「みみ」「はな」「くち」などの簡単な言葉をイラスト付きでマッチングさせます。こうした作業では、選択肢を増やすほど難易度が高くなりますので、まずは2択から始め、個々に応じて少しずつ選択肢を増やしながら、スモールステップでレベルアップを目指します。

また、数字の勉強では、「1、2、3、4、5」と唱える"数唱"ができても、"1個がどういう状態か"という"数量"まで結びつかない子がいますので、数唱と同時に数量の確認もしながら勉強していきます。鉛筆で書く練習では、まずは右利きなら左から右に線を描く練習をします。それができるようになったらギザギザや曲線を練習します。ただ、握力が弱くて鉛筆を持ち続けられない子もいますので、クリップを使うことで指で挟む面積を広くして、持ちやすくする工夫もしています。

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■給食
授業後は給食ですが、噛む力が弱い子がいるほか、ダウン症だと咀嚼せずに丸飲みしようとする子もいます。そこで東京都では、「普通食」という一般的な給食に加え、「中期食」「後期食」と呼ばれる形態の食事を提供しています。「後期食」は咀嚼が難しい児童向けのすりつぶされた食事、「中期食」は普通食と後期食の中間です。例えば筋ジストロフィーの子は噛む力が弱いため、つまらせないようにすりつぶした後期食を提供します。

また、食べ方の支援が必要な子もいますので、基本的には全員が取り分け皿を使い、教員が分けて食べさせます。さらには、勢いよく手で食べようとする子もいますので、片方の手でお皿を持ち、もう片方はスプーンを持つように指導します。お皿が落ちて割れることや、子どもが食べ物を投げてしまうこともありますが、食事は一生続く大切なことですので、今のうちから正しく食べられるように指導します。
給食後は再び「日常生活の指導」があり、小学部1年生は14時下校ですが、登校から下校まで、子どもたちにとってはすべてが勉強です。中学部になると「職業」「家庭」「作業学習」といった教科が加わります。これは、高校を卒業して企業で働くことを目標にしているからです。

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特別支援学校におけるさまざまな支援方法

■視覚支援
特別支援学校の教室では、子どもたちが目で見てわかるような「視覚支援」の工夫がされています。例えばホワイトボードには、1番「着替え」、2番「朝の会」、3番「運動」、4番「自立活動」、5番「国語・算数」、6番「給食」、7番「着替え」、8番「帰りの会」という1日の流れが、イラストつきのカードとともに掲示されており、これを朝の会で発表します。特に自閉症の子は、1日の見通しが立っていないと不安定になりがちのため、一つずつ自分が今何をしているのかを確認しながら、日々の生活を送っています。

■ついたて
特別支援学校の教室では、ついたても頻繁に使用します。教室が明るいと落ち着かなくなる子がいるほか、周りに多くの人がいると、集中できない子もいます。教室内は情報量が多く、授業でも荷物整理でも雑多な情報を受け止めてしまい、手元に集中できないのです。そこでついたてを使い、目の前のことに集中できる環境を整えるのです。

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■登下校
特別支援学校では、児童生徒の登下校も特徴的です。障害のある子どもは一人で外に出ると危険です。中学部・高等部も基本的には一人通学が推奨ですが、難しい場合は一人でのバス通学があります。本校には登下校用のバスのコースが8種類あり、ここでも教員が支援を行います。一方、下校時には放課後等デイサービスの職員が迎えに来ますので、子どもたちが向かう各施設の職員に、体調面やその日に頑張ったことなどを伝えて引き渡します。その後、子どもたちは5時頃に帰宅となり、そのときは保護者が迎えに来ます。その際、学校での様子と放課後等デイサービスでの様子が保護者に伝わります。

■保護者や外部専門員との連携
学校と保護者との間では、毎日連絡帳で情報共有をしています。本校は電子化されていて、一人ずつその日の様子を細かく書いて保護者に送信します。「体育の飛び箱で、挑戦する意欲が見られました」「給食で苦手な食べ物を頑張って食べました」といった内容を伝えると、保護者は安心します。保護者は学校での様子を知りたいものですし、細かく伝えるためには、子どもたちのことを常に見ている必要があります。

一方で、保護者からの連絡事項で、「少し咳と鼻水が出ます」といった家庭での様子が書かれていれば、学校での運動では無理をさせないなどの対策ができます。また、「ここ数日は家庭で便がありません」といった情報があれば、給食後にトイレに誘うなどの対策につなげられます。ほかにも、家庭での様子を知ることで、学校でどういう支援をしたらいいか、どういうスモールステップを踏むかの目安となっています。

また、特別支援学校は外部専門員とも連携して子どもたちを支えています。言語聴覚師や理学療法士、作業療法士のほか、行動心理の専門家が問題行動の解決方法を助言してくれるケースや、摂食の専門家が給食の咀嚼の仕方や食器の使い方に関する助言をしてくれたケースもあります。

■副籍交流
小学校低学年の場合、本来自分が通うはずだった学区内の公立小学校との交流があり、これを副次的な籍を置く「副籍交流」といいます。本人と保護者の希望によって「直接交流」と「間接交流」のいずれかを選び、「直接交流」では、例えば月に1回、小学校の学級活動や音楽、体育など、勉強以外の活動に参加。「間接交流」は、直接的な交流が難しい場合に、"学級だより"を受け取ったり、図工の作品展示をしたりします。

■マカトンサイン
特別支援学校には発語がない子が多く、自分の意思を伝えることが難しい子もいますので、コミュニケーションツールとして「マカトンサイン」も使います。例えば「トイレに行きたい」と言葉では伝えられないときに、身振り手振りを用いて教員に伝えてもらうのです。ただ、身振り手振りが難しい子もいますので、トイレのイラストを指差して教員に伝えるコミュニケーション方法もあります。さらには、音声ツールなど活用して意思を伝えることができますので、個々に応じたコミュニケーションツールの使い分けをしています。

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教員1年目の生活

ここからは、教員1年目のリアルについて話をします。まず、1年目の同期は17人で、とても楽しく過ごしています。全員が同い年ではなく、新卒の同い年は私を入れて5人。あとは全員年上ですが、教員1年目ということで同期の横のつながりが強く、仲間の存在が大きな力になっています。

日々の業務は、朝8時半から職員会議があり、子どもたちが登校してくる8時40分から下校する14時まで、空き時間はありません。休み時間も子どもたちと一緒に過ごしますし、場合によってはトイレの個室の中までついていきます。給食の時間も気を抜けず、食べるのが早くなりました。

また、「研究授業」が年に3回あり、直近ではサーキット運動と跳び箱を行いましたので、内容を紹介します。
平均台を渡ってから四つ這いでトンネルをくぐった後、マットで横転をしてからコーンまで行き、走って戻ってくるという流れです。まずはこれをイラストで伝え、見本の動画も見せます。このとき、目標となる動きを明確にすると、子どもたちは「ここを頑張ればいいんだ」とわかります。今回は、マット運動の際に両手を伸ばして耳の横につけることと、戻ってきたら最後にかっこよくポーズを取るということに設定。「この二つを頑張るよ」と伝え、「みんなよくできたね。花丸だよ」と褒めます。
次に、飛び箱です。まずは私が見本で飛び、最後はポーズ。足の動きがわかる前からの動画を見せ、スローモーションでも再生して飛び方を伝えます。ポイントとして示したのは、手をつくことです。ただ、ジャンプができない子もいます。能力には差がありますので、これなら全員ができるだろうという内容を第一段階の目標とし、段階的に次の課題と目標を与えます。子どもたちは全力で取り組み、飛べずに悔し涙を流す子もいました。それくらい気持ちのこもっている子どもたちにとっては、そこで成功体験を積めたら大きな自信になります。だからこそ一回の授業が本当に大事ですし、私も妥協することなく授業準備に力を入れました。

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特別支援教育は「教育の原点」

私が特別支援学校の魅力だと感じる一つ目は、一人ひとりに手厚い教育が進められていること。少人数体制ですので、一人にじっくり時間をかけられます。1日中一緒に過ごしますので、その子のことがとてもよくわかるようになり、その上で一人ひとりに合う教育ができる点に、特別支援学校の醍醐味があります。学習面だけでなく、生活面での成長も多く見られ、周囲へのやさしさや、着替え一つにしても、近くで成長を感じられます。

そして、何よりも伝えたいのは、「特別支援教育は教育の原点である」ということ。例えば、体育の時間に「これを真似して」と言っていくらお手本を示しても、自分の体のイメージができない子は真似できません。一人ひとりどこから情報を得るかが違うため、耳からの情報、目からの情報、触覚の情報などを使い分け、その子に合わせた教え方が求められます。向かい合ってダンスの練習をする場合、教員が右手を上げたら、子どもたちには鏡を見る感覚で左手を上げてほしいのですが、私が右手を上げると同じように右手を上げる生徒、反転で真似する生徒もいますので、個々に合ったお手本の示し方が必要なのです。その点、ベテランの先生を見ていると、非常に多くの引き出しを持っています。洞察力があり、視野が広く、後ろにも目がついているのかと感じるほどです。特別支援教育では、子ども一人ひとりの能力やペースを把握した上でスモールステップを踏む必要があり、個々に応じて集中できる環境を整えていくことが必要。そこに私は「教育の原点」を感じるのです。そんな特別支援教育に向いていると思う人の資質を4つ、最後に紹介します。

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■小さな変化に気づける人
着替え一つにしても、前と後ろを確認して着られたことなど、小さな変化・成長を見逃してはいけません。それに気づけないと、次のスモールステップに進めないからです。

■待てる人
子どもたちは何をするにも時間がかかります。教員がしてあげるのは簡単ですが、そこをあえてやらず、自分一人でさせるために待てる人が向いています。

■人の成長を自分のことのように喜べる人
特別支援教育では、とことん褒めて子どもたちを伸ばしていきます。成功体験を積ませて次のステップへと向かわせるために、ときには大げさに褒めながら、子どもたちが安心して学べる環境を整えます。

■他人を理解しようと思える人
「わからないからいいや」で済ませることなく、「こうしたいのかな、ああしたいのかな」と考え、次に何に取り組ませるかという対策につなげることが大切です。

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【質疑応答】

【学生】
学生時代は部活動と並行して、どのようにスケジュール管理をして勉強していましたか。

【尾崎さん】
部活動での主務の仕事も、教員採用試験対策も、私はどれも妥協したくなかったので、優先順位を決めた上で、すき間時間をフル活用しました。"てんやわんや"の時期もありましたが、自分なりに試行錯誤しながら取り組んでいくうちに、"今すべきこと"がわかるようになりました。また、普通高校での教育実習期間は本当に寝る暇もない3週間でしたが、現在は「あのときよりは大変ではない」というマインドで過ごせています。
学生時代の頑張りは決して無駄になりませんので、皆さんを応援していますし、少しでも特別支援学校に興味を持ってもらえたらうれしいです。

【前島先生】
学生はベテラン教員からお話を聞く機会は多いと思いますが、新卒で教員になった先輩の1年目の話を直接聞けた経験は貴重だと思いますので、ぜひ自分のキャリア形成に活かしてほしいと思います。尾崎ひかる先生、本日はありがとうございました。

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