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子どもたちが楽しみながら学ぶ絵本の編集

飯塚 友紀子さん

株式会社世界文化社 ワンダー編集部長 編集長


本日のお客様は、世界文化社ワンダー編集部編集長の飯塚友紀子さんです。飯塚さんは1998年に世界文化社に入社。以来、幼保向けの編集部で「PriPri」「月刊絵本」などの編集に携わり、現在は編集長を務められています。今回は「月刊絵本」をはじめとする編集の仕事内容、そして飯塚さん自身の学生時代の就職活動の話や、仕事と育児の両立についてなど、今後の皆さんの人生とつながりのある仕事やライフイベントといった様々なことをお話いただきます。
<2018.11収録>

総合出版社で働く

私が勤めている株式会社世界文化社は、雑誌や実用書、小説や絵本など、様々な種類の出版物を手がけている総合出版社です。特に雑誌に力を入れていますが「家庭画報」という雑誌をご存知でしょうか?皆さんのお母さんや50代以上の女性を対象にした弊社の看板雑誌です。書店の中高年婦人を対象にしたコーナーに置いてあるので、ぜひ手に取っていただきたいと思います。

他には「MEN'S EX」や「Begin」という男性誌、若い女性をターゲットにした「LaLa Begin」という雑誌も出版しています。これらの雑誌は、基本的に書店に行けば置いてありますが、私が所属する「ワンダーCS事業本部」が手掛ける出版物は少し特殊です。販売ルートが異なり、書店を通してではなく、日本全国に販売会社を持ち、その販売員が直接、幼稚園・保育園・こども園に絵本や様々な商品を販売しています。

本だけでなく、保育に関わるすべてを手掛ける部署

これからご紹介する本は、初めてご覧になる方もいるかもしれません。「ワンダーCS事業本部」は本当に様々なものを作っています。絵本もあれば、子どもがつける名札、シールを貼る出席ノート、さらには遊具やロッカーなども作って販売しています。主に雑誌を作る会社なので、不思議な部署と思われているかもしれません。

私はその事業部内で入社以来ずっと編集部に所属し、絵本や保育雑誌を作っていますが、本日は「月刊絵本」を中心にお話します。「月刊絵本」は幼稚園・保育園・こども園専用の知育教材で直接、園に届けています。月刊なので子どもたちの成長段階に合わせて、月々の園の行事にちなんだ内容を盛り込むなど、園に特化して作っています。また、国が定める幼稚園教育要領や保育所保育指針に準拠しており、それがしっかりとした柱になっています。大学で保育を教える先生や、園長先生を編集委員として迎え、毎月相談しながら作っています。小学校は国語や算数などの教科書を通して学びますが、「月刊絵本」は絵本の楽しさを通して学ぶことを目指して作っています。

子どもにとっての良さ、大人にとっての良さがある絵本

「月刊絵本」のいい点を3つ挙げると、1つ目は能動的に参加できることです。様々な仕掛けがあり、1人で読むのではなく、先生と子どもがやり取りしながら読めるので、子どもが自発的に学ぶことができます。2つ目は未知のテーマと出会えることです。本を買うとき、どうしても子どもの興味や保護者の好みで選びがちですが、「月刊絵本」は毎号、様々なテーマを取り上げているので、幅広いジャンルの知識と出会えます。これは大きな魅力であり、強みだと思っています。3つ目は友達と楽しさを共有できることです。興味関心や楽しさを共有することで仲間意識が育ちます。逆に友達と違う意見があれば、考え方の多様性にも気づけます。それは子どもたちにとって大きな学びとなるのです。

さらに、保育者と保護者にも良い面があります。「月刊絵本」は月初めに配られ、先生が季節や行事に合わせて読んだり、子どもたちがシールを貼るページであそんだり、空いた時間に読んだり1ヵ月もすると、子どもがこの本を知り尽くしている状態になり、思い出がたくさんつまった絵本になります。そして、絵本を家に持ち帰り思い出を話すと、保護者は絵本を通して園での様子がわかり、安心につながります。保育者と保護者をつなぐという意味でも非常に役立ちます。

数日前、ある園の保護者会の役員の方が弊社を訪問されました。子どもがとても熱心にこの本を読んでいるというエピソードを聞いて、この本を楽しみにしている子どもがたくさんいることを改めて実感しました。

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子どもが五感で楽しむ

ワンダーCS 事業本部で取り扱う月刊絵本にはいくつか種類があり、様々なコンテンツが入った「総合絵本」や、日本の民話や世界の名作を題材にした「お話絵本」、オリジナルの「創作絵本」があります。また、「ワンダーしぜんランド」という科学絵本もあり、すべて写真で構成されていて1冊1テーマで編集しています。周りにある事象を科学的な視点でひも解き、1つのテーマに深く入り込める絵本です。動物、植物、食べ物もあれば、電車や働く車、社会的なテーマを扱うこともあるので、子どもにとっては未知の世界と遭遇できます。

2019年に向けて創刊した「ぽっけ」という本もあります。「ぽっけ」の名前の由来は『魔法のポケットからどんどん楽しいこと、面白いことが、たくさん出てくるような、そんな絵本を作りたい』と思ったことです。子どもたちが一緒に読みながら触ったり、声を上げたり、参加してくれるような内容にしました。

例えば「ぽっけ」には、こんな文章が載っているページがあります。「きつねくんがくまくんのせなかを こちょこちょこちょ、うさぎちゃんも こちょこちょこちょ」という内容です。実際に子どもたちがくすぐりごっこをしてもいいですし、1ページでいろいろ楽しめます。さらに、「ぽっけ」には、イチゴの絵を手でこするとイチゴの香りがするページがあります。これは香りのするインクを使用し、こするとカプセルがつぶれて香りが出る仕掛けになっています。石鹸や蜂蜜、チョコレート、カレーの香りもあります。

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半年以上かけて一冊を手掛ける

次に、実際に絵本をどのように作るのかを説明します。編集の仕事に興味がある方もいると聞いたので、文字やイラスト、写真、色などを点検するために試し刷りした、校正紙というものを持って来ました。本によって様々ですが、「月刊絵本」に関しては大体6ヵ月くらいかけて作ります。月刊なので、4月号を6ヵ月、5月号を6ヵ月、6月号を6ヵ月と、常に複数の月号を並行して進めて作ります。本誌だけでなく付録などもあるので、常に20とか30くらいの企画が同時進行しています。

1年で最も力を入れる4月号の制作の流れを説明します。なぜ4月号が特別かといいますと、年間購読の契約をして届けるスタイルなので、年度の始まりの4月号がサンプル本の役割を果たし、先生方が1年間使うかどうかを決める判断材料になるからです。

前年の1月から制作を始め10月には完成させます。まず、1月から3月まではページ構成のプランニングをしていきます。さらに、どのような仕掛けが喜ばれるか、予算との兼ね合いも見ながら編集部で話し合い、専門家の先生も交え編集会議を開きます。専門家のご意見をいただき、何度も何度も目次やページ構成を練り直します。そして、イラスト作家への依頼や、タンポポや菜の花など、4月号のイメージに合った写真を撮影し、でき上がったお話の確認、追加取材や追加撮影を6月頃まで行います。その後も細かいデザインの調整に時間をかけ、何度も何度もデザイナーとやり取りします。

8月には文章などの間違いなどを調べる校閲担当の方に文字のチェックを依頼します。絵本は文字数が少なく、校正が簡単と思われるかもしれませんが、とても責任重大です。初めて文字に触れる子どもが読むので、間違いがあってはもってのほかです。大人の場合、文字などの間違いに気づきますが、子どもは気づきません。間違ったものがそのまま知識として吸収される恐ろしさがあり、いつも緊張感をもって校正します。それでも、ひらがなの落とし穴があり、思いがけない箇所で間違います。「おはなし」が「おなはし」になっていたり、意外な部分で間違いが見つかるので校正には気が抜けません。校正が終わったら印刷所に入稿します。印刷所の従業員の方とも情報を共有し、色や仕掛けが大丈夫か、何度もやり取りして校正が終了します。

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ここまでの絵本作りについて、何か質問はありますか?

学生A:絵本の編集作業では、お話担当の社員や、写真担当の社員など決まっているのでしょうか?

決まっています。作る本や編集部によって体制に違いがありますが、絵本の場合は本ごとに年中さんの本担当、年長さんの本担当など決めています。その中で写真ページ担当や、お話ページ担当など役割分担をしています。また、本の形態や編集部の人数など、状況に合わせて様々な工夫をしています。

学生B:編集長として様々な判断をされると思いますが、その判断はインスピレーションなのですか?それとも統計的なデータを元に判断しているのですか?

インスピレーションか統計かと聞かれたら、インスピレーションではないと思います。統計の数値があるわけではないのですが、何度も子どもたちが本を読む姿を見たり、先生にもお話を聞いているので、それが編集者の経験値として刻まれ、的確な判断ができると思います。全部、経験値を元にしているかというと、そうでもなく、担当編集者の感性も大いに影響していると思います。

学生C:絵本の各ページを表す数字(ノンブル)が、「マル」や「ハート」、「星」のマークの中央に書かれていますが、これにはどのような意味があるのですか?

ページ数をマルやハート、星のマークで囲んでいるのは、小さな子どもは数字が読めない場合があるからです。先生がマークを読み上げ、開くページを簡単に認識できるようにしてあるのです。

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私がやりたい仕事を見つけるまで

ここからは、私の就職活動のお話をします。幼少期から紙芝居や劇の台本を作るのが好きで、高校生までは小説家になりたいと思っていました。でも、何か書きたいテーマがあるという訳ではなかったので、自分は本当に小説家になりたいのかと疑問に思うようになりました。大学1~2年生の時は進路についてあまり考えていませんでした。しかし、当時は就職氷河期だったので、とにかく覚悟を決めて就職活動を行わなければという気持ちはありました。

私は大学で社会学科を専攻していて、専門的な職業に就きたいと思っていました。社会学科に通わなければ取得できない家庭裁判所の調査官も考えましたが、自分の性格を考えた時、実際に職業として働いていけるか疑問に思いました。その後、新聞記者の仕事はどうかと思い活動しましたが、新聞記者の仕事は夜討ち・朝駆けが当たり前といわれていました。女性が夜、取材したい人の家の周りを歩き回っているのはかなり怪しく見えるので男装することもあるそうですが、そこまでして新聞記者の仕事をする覚悟は私にはありませんでした。

マスコミの仕事に就きたいという気持ちはありましたので、テレビ局のディレクターも選択肢に入れ面接も受けました。結果は不合格でしたが、テレビ局の方々には、出版社に提出するエントリーシートを添削していただいたりと、とても可愛がっていただきました。就職活動中は実に多くの方にアドバイスをいただき、たくさんサポートしていただきました。

今の仕事へと導いてくれた本当に好きなこと

図書館で自己分析やSPIといった就職のための勉強をしていた時、図書館の本を見て、本が好きだという気持ちを思い起こしました。人生を振り返り、辛かったり迷った時、私を助けてくれたのはいつも本でした。そんな気づきをきっかけに、出版社を本気で目指すことにしました。自分が好きだったことに気づけたことが、就職活動を続けていく支えになりました。

将来の理想の姿を思い描いて焦らずに

皆さんに伝えたいのは、仕事探しは学生時代の就職活動だけではなく、会社に入ってからも一生続くということです。私は入社以来、ワンダーCS 事業本部で実に様々な仕事を経験してきましたが、常に3年先、5年先の自分を考えて「この会社で何ができるのか」「自分は何がしたいのか」を考えてきました。将来のことを考える機会は常にあります。ですから、大学時代の就職活動を長い道のりのスタートだと思い、焦らず、じっくりと取り組んでいけばいいと思います。また、若い皆さんが真剣に就職活動に取り組めば、社会の諸先輩方をはじめ、味方はどんどん出てくると思います。

苦難の連続の中で諦めなかった理由

私には息子が2人いるのですが、自分の母が専業主婦だったこともあり、仕事と育児を両立するイメージが湧かず、様々な人に話を聞きました。実家が自宅に近くなく共働きだったので、常に保育園と病児保育室、そして夫とのチームワークで子どもを育ててきました。特に職場の理解が大きかったです。しかし、幼少期は保育園のお迎えがあるので5時半に帰社しなければならず、仕事が終わらない時は、こっそり家で仕事を片づけたことも昔はありました。

息子はまだ赤ちゃんだったので、授乳しながら寝たことを確認し、それから仕事を始めました。そのうち子どもが起きて、また寝かしつけての繰り返しが続くこともありました。また、風邪を引いた時は病児保育に預けるのですが、嫌がって泣き出したときに私ももらい泣きしてしまう辛い時期もありました。今になって振り返ると、とても大変でしたが、仕事が楽しいという気持ちが強かったので会社を辞めたいとは思いませんでした。この仕事は人と関わる機会が多く、本当に素敵な人たちにたくさん出会えました。そんな尊敬できる人たちと接することが、この仕事を続ける原動力になっていると思います。

人生を楽しくするための黄金法則

息子2人が「お母さん、仕事が面白そうだね。仕事をしているときのお母さんは楽しそう」と言ってくれることが、私にとっての一番の賛辞であり、今の私の支えです。私の人生において仕事の達成率は80%、育児が80%でトータル160%です。この割合が仕事と育児を両立させる黄金法則だと思っています。この黄金法則は、私が産休に入る時、先輩が教えてくれた法則です。

小さな子どもがいると、仕事を完璧にするのが難しいのが実情です。子どものそばにずっといてあげられないので、育児の割合が80%になります。でも、仕事と育児の割合を両方合わせたら160%になり、このような考え方もあると思いました。一方で、仕事と育児を両立するだけが人生ではなく、一度仕事を中断して子どもとゆっくり生活を送るなど、人生には様々な選択肢があると思うので、自分らしいそれぞれのストーリーを見つけてほしいと思います。そして、私の人生は100%以上だと思って生きていけたら、楽しくなる気がするのです。

保育者という職業がいかに素晴らしいか

「月刊絵本」の編集長になったのは最近で、それまでは「PriPri(プリプリ)」という保育雑誌の編集を12年間、担当していました。子どものあそびプランを提案したり、乳児とどのよう接すればよいのかなど、園で先生方が保育で困ったときに頼れるアイデアマガジンです。

この雑誌を作るために様々な園に訪問する機会があり、保育者という仕事の素晴らしさを実感しています。子どもたちの成長や人生を支える素晴らしさもあるのですが、保育者は保護者も支えているのです。編集者として、親として思うのですが、誰かの人生を支えられる仕事は、それほど多くないと思います。自分の心の中のすべてをさらけ出して子どもを支えたり、全力で仕事に向き合ったり、そんなことをできる職業はなかなか出会えません。ですので、保育者を目指している方は、本当に誇りを持って学習や就職活動に取り組んでほしいと思います。

学生D:仕事でプレゼンをする際、飯塚さんが人に伝えるために大切にしていることがありましたら教えてください。

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相手がどういう気持ちでプレゼンに参加していて、何を必要としているのか、何を持って帰ると相手にとって有益なのかを考えるようにしています。どうしても自分中心に考えてしまうのですが、聞く側の視点を持つことが大切だと思っています。以前、友人に「プレゼンで緊張するのは、格好つけているからだ。聞く側の気持ちを考えたら緊張もおさまる」と言われ、ただ話すだけではなく相手の気持ちも考えるようにしています。

学生E:新しいものを作るための発想力やアイデアの元になっているものは何でしょうか。

日々、様々なものに接することだと思います。ゼロから新しいことが発想できれば素敵ですが、なかなかそうはいかないので、本屋さんに行ったり映画を観たり、とにかく何かを感じ取ることが大事だと思います。アイデアの素がないと逆にできない気がしますし、インプットが大切です。

学生F:自分の人生の転換期になった本や、おすすめの本があれば教えてください。

本棚はその人を表す、と言います。人生のその時々に、様々な本が並んでいるので、おすすめの本は変わっていきます。今、読んでいる本は、レンタルビデオ店「TSUTAYA」の企業としての一面が描かれた本や「ヤマト運輸」のことが書かれた本を読んでいます。

職員G:ご自身の就職活動のお話しがありましたが、現在は採用する側として、飯塚さんが面接をするとしたら、学生のどのような部分に注目しますか?そして、どのようなことを期待されますか?

一緒に仕事をしたいかどうかが重要です。いろいろな話をする中で、この人と仕事がしたいと思えるかどうかがポイントになると思います。新卒の学生に対しては、応援して育て上げたいと思ってもらえるかだと思います。それは会話の中で見える素直さなどが決め手になると思います。

短い時間でしたが、何か一つでも持ち帰るものがあれば嬉しいです。就職・進路が決まった方もいるということでしたが、自分探しはまだまだこれからだと思います。皆さんが元気に楽しく、益々ご活躍されることをお祈り申し上げます。本日はありがとうございました。

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