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LGBTってなんだろう?

藥師 実芳さん

特定非営利活動法人 Re:Bit 代表理事


本日のお客さまは、特定非営利活動法人ReBitの代表理事、藥師実芳さんです。藥師さんは現在26歳で、大学卒業後、ウェブ広告代理店勤務を経て、2014年にLGBTに関する正しい知識を広めるためのNPO法人ReBitを設立しました。現在、行政・自治体・教育現場・企業などで、様々な活動などをしています。ご自身も女性として生まれ、18歳の時に男性として生きる決心をしました。2015年度、青年版国民栄誉賞とも言われる『人間力大賞』を受賞しました。
<2015.10収録>

みなさん、こんにちは。藥師と申します。僕は今年で26歳になります。最初に少しだけ、ReBitの紹介をさせていただきます。ReBitは、「LGBTを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会」を目指しているNPO法人です。ReBitの"Bit"は「少しずつ」という意味、"Re"は「繰り返す」という意味で、「少しずつでも社会が良くなるといいな。」という思いを込めて名づけました。

現在、10代から20代まで約300人ほどの人たちがこの団体に所属していて、活動としては大きく分けて3つのことをやっています。

1つが「LGBT教育」。これは年間100回ぐらい、小・中・高校、大学、行政機関などに行ってLGBTについてお話したり、色んな企業で研修を行っています。2つ目は「LGBT成人式」。これは全国の9地域で、LGBTにむけた成人式型のイベントをやってます。3つ目に「LGBT就活」。僕自身もキャリアカウンセラーの資格を持っていて、LGBTの人たちの就活を応援しています。他にも活動としては、本を出版したりしています。

LGBTってなんだろう?

ところで「LGBT」って何かご存知ですか?レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取った、セクシュアルマイノリティ(性的少数者)の総称です。

皆さんの中で、LGBTの友人や知人がいる人?なるほど、けっこういますね。この写真は、ReBitのメンバーです。この6人の中で何人がLGBTだと思いますか?...5人です。では誰がLGBTで誰がLGBTじゃないかわかりますか?...わからないですよね。よく「LGBTの人に会ったことがない。」って言われることが多いんですが、外見だけではわからないんです。

LGBTのLはレズビアンで、女性として女性が好きな人。Gはゲイで、男性として男性が好きな人。Bはバイセクシュアルで、男性も女性も恋愛対象という人です。最後のTは、トランスジェンダーという意味で、身体的な性と心の性が一致しない人を指します。トランスはラテン語で乗り越えるとか、逆側に行くという意味、ジェンダーというのは性とか性別のことです。

ちなみに「性同一性障害」という言葉は、一部のトランスジェンダーに対する医学用語で、例えばからだの性をこころの性に近づけるための治療をしたい人、戸籍上の性を変えたい人などは、その診断名が必要となります。

トランスジェンダーの中で、例えばからだの性が男性で、こころの性が女性の人は"Male To Female"。頭文字を取ってMTFのトランスジェンダーと言います。僕の場合は、からだの性は女性で、こころの性は男性なので"Female To Male"。頭文字を取ってFTMのトランスジェンダーというわけです。

ここでちょっと、みなさんの性別を分けるものについて考えてみましょう。「そんなの、からだをみればわかるよ。」と思うかもしれません。確かにからだの外性器や内性器、性染色体で見る性別も分け方のひとつです。でも"からだの性"以外にも、性別を分ける軸が3つほどあるんです。

まずひとつには "こころの性"。これは自分自身がどういう性別に思っているかです。次に"好きになる性"。性的指向とも言いますが、どの性別の人を好きになるか、もしくはならないかです。そして最後に"表現する性"。これは性表現とか社会的性とか色んな言い方がありますが、服装や話し方、振るまい方などで見る性です。

例えば足を開いて座るのは男性的など、服装や話し方、振るまい方などに、ジェンダーが付与されているとしたら、"表現する性"にあたります。

このように、からだの性だけで性別は決まらないし、見た目で性別や性的志向を判断することもできません。からだの性、こころの性、好きになる性、表現する性を組み合わせてみる必要があります。例えばからだの性が女性で、こころの性も女性、で男性が好きだったら、異性愛の女性。からだの性が女性で、こころの性も女性、で女性が好きだったら、レズビアンというわけです。

LGBT以外にも、セクシュアリティ(性のあり方)はたくさん存在し、人の数だけセクシュアリティは存在するとも言われています。その中でもいくつかをご紹介します。まず「性分化疾患」。これは生まれた時からからだの性が男女に分けきれない人です。約2000人に1人ぐらいの割合で生まれると言われています。

次に「x(エックス)ジェンダー」。こころの性が男女に分けきれない人です。この中には「自分は男でも女でもある」と思っている両性、「男と女の中間だ」と思ってる中性、「自分のこころに性別はない」と思っている無性などがあります。こころの性も、単純に男女に分けることはできないのです。

「パンセクシュアル」は、すべてのセクシュアリティの人が恋愛対象となりうる人です。また、「アセクシュアル」というどのセクシュアリティの人に対しても恋愛感情を持たない人です。アメリカでは約100人に1人ぐらいの割合でいると言われています。

カタカナだらけでややこしいですよね。今日はここでカタカナ言葉を覚えて帰って欲しいわけではなくて、つまりこれほどに性は多様で、人の数だけセクシュアリティがあると言うこと、単純に男女には分けきれないということを、ご理解いただければと思います。

LGBTの課題と対策について

電通総研が7万人に対して取った数字では、LGBTの割合は全体の7.6パーセントでした。これは約13人に1人くらいの計算になります。左利きやAB型の割合と同じくらいです。佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さん、渡辺さん、伊藤さんと言った日本の六大苗字の合算値より多く、実はすごく多い、身近なマイノリティーのひとつなのです。

学校現場に行ってLGBTのお話をすると、「いや、それは性や恋愛の話だから、子どもの話じゃないよ。」とか、「就活に関係ない。」とか言われることがあります。でもLGBTは、個人のアイデンティティーなので、進路や就職の時など、ほとんど全てのライフプランに関わってきます。

LGBTであることで自分自身を否定的に捉えたり、誰かに否定的に捉えられたりすることで、自尊感情の低下にもつながりやすく、性同一性障害者の約3人に2人は希死念慮、死にたいという思いをもったことがあるそうです。そしてそのピークは、小学校高学年から高校の間だと言われています。このようにLGBTは子どもの課題でもあるので、教育現場での対策も重要です。

今、世界や日本で、LGBTはどういう風になっているのか見ていきますと、まず、世界の約3分の1の国と地域に、LGBTに対する差別禁止法があります。就職で内定切りをしてはいけないとか、家を貸さないと言ってはいけないといったことです。また、同性婚が許されLGBTの人権が守られている国もあります。逆に、LGBTというだけで死刑になったり罪に問われる国もあって、世界でもまだまだ幅があります。

日本はというと、罪には問われないけれど、権利の保障もなく、差別禁止法もありません。LGBTに関しては後進国で、国連にも「もっとLGBTの対策をしなさい。」という是正勧告を受けています。

2020年東京オリンピック・パラリンピックが決まって、五輪憲章の中に「LGBTであることで差別をしてはいけない。」という条項が盛り込まれました。これを東京や国が受け取って、どういう対応をしていくか注目が集まっています。

実際には国としても今、色んなことをやっていて、内閣府が出した「子ども・若者ビジョン」や、「自殺総合対策大綱」の中にも性的少数者について明記されています。2013年の「男女雇用機会均等法」でも、LGBTに対する差別的な言動もセクハラであることが規定されました。

2014年に文科省が、全ての小・中・高校に、性同一性障害の児童生徒に対する対応事例の有無を調査しところ、606件が対応事例があると答えました。それを受けて、性的マイノリティの子どもへの配慮や対応を求める通知を全国の小・中・高校に出すなど、国も色々と動き始めています。

自治体では、約86の自治体でLGBTに関する条例があります。ただ日本には約1800の自治体があるので、ここはまだまだ長い道のりです。

最近話題になっているのが、渋谷区の「同性パートナーシップ条例」です。正式名称は「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」と言う名前ですが、これは「男女の別を超えて多様な個人を尊重しあう社会を目指そう」というものです。

これが画期的だとされたのは、渋谷区に住む20歳以上の同性カップルが、公正証書を持てばパートナーとして認められるということです。自治体が同性でもパートナーとして認めるのは東アジアでも初めてで、世田谷区でも続いて同じような取り組みが進んでいます。

次に経済で見てみますと、LGBT市場というものがあります。国内でLGBTの人たちが消費する市場は5.9兆円ほどと言われています。これはアルコールの市場規模とほぼ同じ額です。そこに参入しようと、今色んな企業が、LGBT向けのサービスや商品開発、マーケティングを行っています。僕らも企業に呼んでいただいて、お話する機会があります。

就活ということで見てみますと、2016年3月の大学卒の新卒就活生は43万人を超えると言われています。これに7.6パーセントを掛けると、LGBTの新卒就活生は3万人を超えると考えられます。調査によると、トランスジェンダーの約7割、同性愛者や両性愛者の約4割が、就活の時に困難を感じたことあると答えています。

これははたらくLGBTのロールモデルがなかなか可視化しないことでどう働いていいのか分からなくなったり、企業の方がLGBTの無理解から差別的な言動が生じたり、就労支援者の無理解から適切な支援ができなかったり、様々な課題があります。

僕のライフヒストリー

ここからはちょっと、僕自身のことをお話ししたいと思います。改めてご説明すると、僕はからだの性が女性、戸籍も女性ですが、小さい頃から自分のことを男だと思っていました。

3歳から9歳までアメリカのニュージャージー州に住んでいて、7歳の時初めて人を好きになりました。同じクラスのオリビアという女の子です。ライバルがいて、カイルという男の子もオリビアを好きだと言っていて、いつもどっちがオリビアと遊ぶかと張り合っていました。でも誰も、「みかは女の子なのに変じゃない?」と言わなかったのです。だからその頃は何とも思いませんでした。

小学校4年生の時に日本に帰って、神奈川県の小学校に編入しました。日本語がほとんど話せなかったので、先生が配慮して女の子グループに入れてくれました。当時、女の子の間で流行っていたのは、ラメラメのペンを集める遊びとか、プクプクのシールを交換する遊びでした。「何だ、これは?!」って思いました。僕は、ドッヂボールとかがしたかったのに。そのとき初めて、「自分は女の子なのか」と意識しました。

小4ぐらいって「恋バナ」とか始まるじゃないですか。「好きな男の子いるの?」とか「バレンタインチョコ誰にあげるの?」とか...。僕は同じクラスの女の子が好きだったんだけど、「どうやらこれは言っちゃいけない。」ことだと気づきました。それで、「好きなタイプは?」って訊かれたら、「うーん、手の血管が浮いてる人かな。」とか(笑)、すごい微妙なラインで返していたんです。

「自分はどうやら女で、しちゃいけないことがあるんだ。」と思いました。それ以来息苦しくて、「自分って何なんだろう?」って、ずっとモヤモヤしていました。

小6の時「金八先生」のドラマで、上戸彩さんが「性同一性障害」の役をやったんですね。それを視て、「あっこれだ!」って思いました。役の中で、彼女はいじめられていて、声を下げるために喉をフォークで突いたり、そういうのを視て、「これって、ちょっと大変なのかもしれない。」とも思いました。

親が寝た後、居間のパソコンで「性同一性障害」を検索してみました。そしたら、「ホルモン治療で身体を男性に近づけたら30歳で死んでしまう。」とか、「昼間の仕事につくことは出来ない。」とか、「日本は差別がひどいので海外に行ったほうがいい。」とか、色々出て来たんです。今となっては全部嘘だとわかりますが、当時の僕は「もうこの国で自分が生きていくことはできないんだ...。」と思いました。

自分がそうと認めるのが怖くなって、「自分はそうじゃない!」と思い込もうとしました。「ばれたら嫌われる。」と思い、できるだけ女の子らしくしていました。雑誌はnon-noを読んで、ローリーズファームで服を買って、ストパーもかけて、ソックタッチで靴下とかも上げて、あ、やりましたか(笑)、そんな風にしていたら「いつか心も女の子になるんじゃないか。」と思っていました。

でもそういう風にすればするほど、本当の自分とどんどん離れていくんですね。友達もたくさんいるし、普段は楽そうに振るまっていて、「お前には悩みなんかひとつもないだろ。」って言われるのに、実は毎晩、布団の中で泣いているような時期でした。

高2の時、「もう生きていけない」と思い、電車に飛びこもうとしました。でも自殺未遂に終わり、それをきっかけに「もういちかばちか、カミングアウトしてみよう。」と思ったんです。その数日後、髪をバッサリ切り、親友を校庭に呼び出して、泣きながら「ウチね、性同一性障害だと思う。」って言いました。それを言うだけで30分もかかりました。

そしたら彼女は間髪入れず、「あっそうなんだ。でも藥師は藥師なんだからそれでいいじゃん。」って言ったんです。自分が10年近く受け入れられなかったことを、いとも簡単に受け入れてくれた。

それ以来、色んな人にカミングアウトを始めて、人生が生きやすくなってきました。「これからもこんな風に自分らしく生きていけるんだ。」と思いました。これは卒業式の写真ですが、チャラチャラしているでしょ(笑)。

「大学に入ったら、もう自分は男性として生きよう。」と決心していたので、高校の卒業式が終わって、母に言いました。「性同一性障害だから、これからは男として生きるからね。」当然、母は気づいているだろうと思って、サラッと伝えたら、母は膝から崩れ落ちて泣きだしました。

そして、「産んでごめんね。」って何度も言うんです。僕はそれを、「性同一性障害の子なら産まなきゃよかった。」っていう意味に受け取りました。それから3年間、家に戻らず友人の家を転々としていました。

しかしその中でも母と少しずつコミュニケーションをとる中で、母の言葉が「自分の育て方がいけなかった。」という自責の念だったと知りました。産み方や育て方とセクシュアリティは関係がないと言われているのですが、小さかった頃の僕が正しい情報がなくて苦しかったように、母も正しい情報がなくて苦しめてしまったんだろうな、と。改めて情報の大切さを感じました。今では、母は「ReBit」の活動を応援してくれ、たまに団体の子たちのお弁当も作ってくれます。

20歳になった僕は、相変わらずチャラチャラしていて、人生で一番モテていました(笑)。その頃に、色んなLGBTの大人に出会って、「なんだ、30歳過ぎても生きれるのか。」と思いました。好きな仕事をしているし、法律上は家族になれなくても、好きな人と生活をしています。

その時、「どうしてそういうことを、もっと早く知ることができなかったんだろう?」って思いました。自分に戸惑っていたあの小学生の時、無理して自分を偽っていた中学生の時、そして死のうとした高校生の時、「あなたのままで大丈夫。」と言ってくれる人がいたら...。

今も、僕のような子が、各学校の各クラスの中にいます。だったら「自分が伝えに行こう。」と思いました。「伝えられるような大人が増えて欲しい。」とも思いました。それで大学2年生の時に学生団体として「ReBit」を立ち上げて、学校現場でLGBTのことをお話する活動を始めたんです。

サークルをやりすぎるとどうなるかというと、5年生になるんですよ(笑)。ということで大学には5年間行って、23歳になってから就活を始めました。他の就活生とひとつ違うことがあるとすれば、全ての企業でカミングアウトをしたことです。「戸籍上は女性だけど、男性として働きたい。」と思ったことや、大学時代に頑張ってきたことが「ReBit」なので、言わないと伝わらないと思ったからです。

いざ、就活してみると、「全然大丈夫。人格と能力で見るので、いっさい関係ありません。」って言ってくれるところもあれば、逆に3次面接で、「自分は性同一性障害であり、大学時代こういうことやってました。」と話すと「帰ってください」って帰されるところもあり、最終面接で役員に、「それであなたの身体ってどうなってるんですか?子どもは産めるんですか?」って訊かれたり...。

福利厚生とかそういう関係かもしれません。身近にLGBTの人がいなくて、どう接すればいいのか分からなかったのかもしれません。でも、人に生殖機能を訊ねたりするのは、セクハラです。誰も悪くなくても、そういう風に誰かを傷つけたりするのです。

約50社受けて、結局2社内定しました。僕が実際に就職したのは、ウェブ広告の代理店で、1000人を超える会社でした。人事の方はすごくサポートしてくれて、楽しく働いていました。

しかし、「自分はやっぱりLGBTの子たちのために働きたい。」と改めて思いはじめました。それで退社して、今、NPO法人ReBitをやっています。

是非皆さんでも、LGBTにとっても働きやすい社会、過ごしやすい学校は何か、自分に出来ることは何だろう?って考えてみてください。

そして僕からのお願いとして、「ホモ」とか「オカマ」「レズ」っていうLGBTを差別する言葉を使わないでください。LGBTを笑いのネタにしないでください。「もっと女らしくしろ。」とか「早く結婚しろよ。」とか、男女を前提とした言い方をしないでください。誰もが結婚や子育てすることを前提にしないでください。誰もが異性愛者であることを前提にしないでください。

最後に繰り返しになりますが、「LGBTの人はあなたの身近にいるよ。」ということを知っておいてください。LGBTかどうかは見た目ではわからないけれど、LGBTに理解があるかどうかも見た目では分からないので、お互いに伝えあっていくことが大事だと思います。

今日は参加していただいて、ほんとにありがとうございました。

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