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テレビドラマに学ぶ 「伝える」を「伝わる」に変える技術

新井 一樹さん

株式会社シナリオセンター


今日は、シナリオセンターの新井一樹さんにお話していただきます。シナリオセンターは1970年に新井さんの祖父、新井一さんによって創設され、ジェームス三木さん、内館牧子さんなど、数々の脚本家を輩出してきました。新井一樹さんは、2010年より「1億人のシナリオプロジェクト」を発足し、シナリオを使ったコミュニケーションの問題解決に取り組んできました。それではよろしくお願いいたします。
<2015.04収録>

こんにちは。新井と申します。僕、今すごく緊張してるんです。何でかって言うと、今日は"「伝える」を「伝わる」に変える技術"というテーマでお話するんですが、終わった時にあまりよく伝わっていなかったらどうしようと...(笑)。頑張って、皆さんに伝わるようにお話します。ところで「伝える」と「伝わる」の違いってわかりますか? たった1文字だけど...?

【学生】2人いたとして、「伝える」が言うほうで、「伝わる」は聞くほう?

そうですね。「伝える」っていうのは、要は発信する側の理屈なわけですよ。で「伝わる」っていうのは話を受け取る側の理屈ですよね。「伝える」と「伝わる」は微妙に違うんです。伝えたいことがあるのなら、ちゃんと相手に伝わった方がいいですよね。

でも自分の思いを伝えるのって、なんか緊張しませんか?別に告白じゃなくても、例えば「どっか遊び行きたい。」って伝えたいのに、「えー、今度でよくね?」って言われたらがっかりしますよね?自分はほんとに行きたいのにそれが伝わらない。「伝える」を「伝わる」に変えるには、そもそも自分が「何を伝えたいのか?」が重要です。

ここに3万円あります。「この3万円好きに使っていいよ。」と言われた時、あなただったら何に使いますか?じゃあちょっと聞いてみよう。

【学生】美味しいものを食べに行く。

おっ、いいですね。他には?

【学生】1万貯金して、2万で洋服買う。

なかなか現実的ですね(笑)。他には?

【学生】ディズニーランドに行って、色々買い物しようかな。

なるほど、チケット代もこれで払えるし、お店で色々買う。いいですね。

【学生】ちょっといいロードバイクを買いたい。

いいロードバイクは3万円じゃ足りないよ。

【学生】そのぐらいのでいいんです(笑)。

なるほど。皆さんそれぞれですね。でも、たとえば彼氏に「美味しいもの食べに行きたい。」って言ったら、「どこ行く?」ってならない?洋服ってどんな?ディズニーランドで何を買物したいのかな?ロードバイクでどうするんだろう?

ちなみに、うちの奥さんに同じことを聞いたら「ピアスを買いたい。」と言いました。「どんなの?」って聞くと「そこそこ良いやつ。」「何で?」って聞いたら、「ちょっとしたお出かけで使いたいから。」「どこで?」って聞いたら、「たとえばゴールデンウィークに、お台場のビールフェスみたいなところに行く時に、ちょっとつけて行きたい。」と。ここまで来るとイメージがわきますね。

部活で後輩に指示する時なども、単に「こうしなさい」じゃなくて、「なぜそうしなきゃいけないか。」「そうなるとどういう状態になるのか。」とかを具体的に言ってあげると、受け取る側はイメージが共有できます。まずは具体的にして、相手の頭の中に映像をイメージさせるのが、「伝える」を「伝わる」にするポイントです。

テレビドラマで、視聴率が10パーセントだと、何人の人が見ていると思いますか?約1000万人が見ています。20パーセントだったら2000万人、たった1パーセントでも100万人、けっこう見てますよね。テレビドラマは、その人たちに伝わるようにしないといけません。

たとえば恋愛ドラマなら、2人がお互いを好きになるお話...ジャン、それでおしまい(笑)。でもドラマの中では、そこを「どういうことが起きて2人は惹かれ合うのか?」「どういうことが起きてちょっと心が離れたりするのか?」「どういうことが起きてそれを乗り越えるのか?」というように、いちいち映像で伝えていきます。

そうすることで視聴者に、「あぁこの2人こうやって心が動いてくのね。」「こうやって惹かれ合うのね。」と伝わるわけです。シナリオは、そのドラマや映画を作るための設計図です。シナリオライターは俳優や女優が喋るセリフを考えて、それをもとにドラマとして映像化されます。

そのシナリオを書く時の要素が3つあって、まずどこでそのドラマが起きるのか?それから、誰が何をしてるのか?「ト書き」と言います。あと、何を言っているのか?「セリフ」です。この3つを整理してあげると、話が伝わりやすくなります。

例えばロードバイクが欲しいあなた、そのバイクどこで乗ります?

【学生】出かける時。

どこに出かけるの?

【学生】ちょっと遠出。

ここら辺だと、じゃあ芦花公園とかかな?誰と?

【学生】1人で。

そうするとシナリオでは、「リュックをしょって自転車を漕いでいる誰々」とか書いてあるわけです。1人だからセリフはないかもしれないけど、休みの日にロードバイクに乗って芦花公園まで行って、道中の風とか気持ちいい...。そんな映像がイメージできますね。

そんな風に具体的に考えていくと、自分が伝えたいことが明確になります。実は伝えたいことって、もしかしたら自分がちょっと大切にしていることだったりするんじゃないかなと思うんです。

それぞれに大切にしているものがあって、自分なりの行動基準がある。この大学に入ったのも、部活をやっているのも、この写真の人のように、カードを1枚ずつ上に乗っけてピラミッドを作っていったからだと思うんです。

「じゃあ、お前は何を積み上げてきたか? 」と訊かれると、今僕は、シナリオセンターというところで仕事をしています。でも、そもそもシナリオセンターで仕事をしたかったかっていうと、全然したくなかったんです。

小学校中学校の頃は、「もうシナリオセンターないな!」と思っていました。なぜかというと、シナリオセンターは祖父が始めた会社で、当時は赤字続きでした。「そんなところに入ったら、僕の人生大変なことになるぞ。」と思っていました。

大学の受験勉強を全然やってなかったので、国語と英語の2科目で受けられる文系か芸術系に絞られて、「芸術ってよくわかんないけど良さそうじゃん?」みたいな感じで、日本大学の芸術学部の演劇学科というところに入りました。

演劇学科の中で一番目立つのは「演技コース」です。他のコースも照明とか脚本とか何かしら舞台に関わります。でも僕の入ったのは「理論・評論コース」。やってるのを見て、「うーん」とか言うコース。別にそれがやりたかったわけじゃなくて、そこしか入れなかったのね。

そんな後ろ向きな感じで入ったものだから、演劇なんて見たことないし、授業もよくわからずに、ダラダラと過ごしていたんですが、ある時「ギリシャ悲劇」という授業を取ったら、それがすごいハマっちゃった。

ギリシャ悲劇って、「人間って何だろう?」とか「人間の欲とは?」とか「生きるってどういうこと?」とか、ちょっと哲学っぽいんです。試しに読んでみるといいと思うけど、読み始めて10ページ目で100パー寝ると思うよ。オイディプスとテレンシウスが出てきて、それを書いているのがアイスキュロスとかで名前が覚えられない。11ページ目までいったら3万円あげるよ。嘘です(笑)。

それがちょうど21歳ぐらいで、その年の9月11日、同時多発テロが起こりました。テレビをぼーっと見てたら、飛行機がビルにぶつかっていて、あれよあれよと言う間に戦争になってしまった...。ギリシャ悲劇を勉強している僕としては、「何なんだろうこの世界は?」って思ったわけです。

「僕が生きている世界と、あそこで飛行機ぶつけたりしてる世界は、同じなのか?」自動改札を通る時、前の人がチャージしてなくて止まっちゃって「チッ、チャージしとけよ。」って思うよね。「チッて感じがどんどん大きくなっていくと、戦争みたいなことになっていくのか?」「そうならないためにはどうしたらいいんだろう?」

振り返れば、僕は自分の中では常に、「他人とうまくやっていきたい。」っていうのが基本にありました。高校時代の友達付き合いもそうだった。9.11で、世界には「他人とうまくやってきたい」人ばかりじゃないんだと思ったら、僕の中で積み上げてきたトランプが 一気にくずれました。

「誰もが、お互いのことを考えられるようになる世の中になるには、どうしたらいいのかね」そんな話を母にしたら、「それってシナリオなんじゃないの?」って言うわけです。母はシナリオセンターの代表です。僕はこの時点ではシナリオセンターとは縁を切ってますから、「んなわけないだろ。」と思いましたが、試しにじいちゃんの書いた「シナリオの基礎技術」っていう本を読んでみました。

そこに「シナリオを書くには、人を見る目、物事を見る目、社会を見る目が必要である。」と書いてありました。忘れもしない3月、こたつに入りながら、その時はもう23、4歳だったんだけど、おじいちゃんの本をボンって閉じて、「シナリオってちょっとすげーな。」って思っちゃったんですよ。

そして不覚にもシナリオセンターで働き始めて、今ここにいるというわけです。ここでちょっと、シナリオで色んな人のことを考えてみるというのを、皆さんに体験してもらいたいと思います。

まず、頭の中に喫茶店をイメージしてください。大輔と花子と二郎、3人が深刻な表情で座っています。イライラした様子でグラスの氷をストローでつついている大輔。向かいでうつむく二郎と花子。どうしてこうなっていると思います?自分なりにちょっと考えてみてください。1分時間をとります。

【学生】(作業中)

どう?何でも良いですよ。

【学生】大輔と二郎は友達で、大輔は花子のこと好きだったのに、花子と二郎はこっそりつき合ってた。

おぉ、なるほどね。で大輔は、お前ら何なんだみたいな感じになってると。他にあります?

【学生】ちょっと違うんですけど、大輔と花子がつき合っていて、二郎と浮気した。

なるほど。三角関係な感じだね。じゃあ、最初に話すの誰?大輔が口火を切ると思う人?

【学生】(挙手)

大輔何て言いそう?

【学生】「何でだよ。」イライラして花子のことを攻める。

なるほど。じゃあ他のパターンは?

【学生】花子が「違うの、話を聞いて。」みたいな。

これ実際に浮気はしてるの?

【学生】大輔の勘違い。

なるほどね。他にも例えば、大輔がトイレ行ってる間に花子と二郎がコーヒー3つ注文しちゃって、でも大輔は紅茶の気分だったみたいなのもあるよね。「俺すげー紅茶の口で帰ってきたら、何で勝手にブレンド頼んじゃうの?!」みたいな。

はい。今、みなさんにイメージしてもらった、「大輔と花子と二郎の間に何が起きてるのか?」「大輔どんな気持ちでいるんだろう?」「花子はどんな気持ちかな?」とか、色々考えたでしょ?

その色々考えるのがシナリオなんですね。この時、みなさんの頭の中では、大輔、花子、二郎のつもりになっているんです。シナリオを書くってことは、それぞれの立場でものを考えるということです。つまり、シナリオ的な発想ができるようになると、伝えたいと思ってる相手のことを考えられるんですよ。

そして人に何かを伝える時に、「私、こういうものを大切にしてきた。」っていう、自分の軸みたいなものがあるといいと思うんです。で、次にこれをやります。

10歳ぐらいの男の子、健太くんをイメージしてください。居間のコタツで宿題しています。でもすっかり勉強に飽きた様子。あなたはそれを覗き込んで、「おっ、健太。宿題なんかして偉いね!」と言います。健太は「お姉ちゃん、分数、全然分かんないよ。僕の人生には足し算と掛け算しかいらないよ!学校の勉強なんてテキトーでいいよね?」と言います。そんな健太に、あなたなら何って答えますか?

次に健太は、「でもお姉ちゃんだって、大学で遊んでるんじゃないの?ママが言ってたよ。」と、厳しいツッコミをしてきます。それに答えてみてください。すると健太が、「へぇ、外でフラフラしてるだけだと思ってた」って言います。そこでまた答えてください。最終的に健太が「ふーん、なかなかやるね。」と小生意気に言ってくるわけです。

ちょっと考えてみよう。それぞれペアになって、右側の人がまず健太役になって、隣の人は健太に分かるように答えてね。答えは短くていいので、パンパンパンとなるべく3分ぐらいに納めて。はい、じゃあ始め。

【学生】(会話中)

じゃあ交代してみよう。

【学生】(会話中)

なんとなくできましたか?じゃあそのセリフを、紙にちょっと書いてみよう。

【学生】(作業中)

大体書けたところで、今書いたものを隣の人と交換して下さい。それを読んで、この人はどういうことを大切にしたいのか、健太にどういうことを伝えたかったのか、分析して欲しいんです。Yさんはどんなことを大切にしてたか、見えてきました?

【学生】人生1度きりだから楽しまないと(笑)。

深く頷いてますね。はい、じゃあMさんはどんなことを大切にしてそう?

【学生】ちゃんと自分で考えて行動しようみたいな。

なるほど。Sさんは何を大切にしてましたか?

【学生】休む時はしっかり休む。やらなきゃって思ったことは絶対しよう。

なるほど。じゃあMさん。

【学生】将来性を大事に。

おぉ、将来を大切に。じゃあCさんは?

【学生】やる時はやる。

なるほど。じゃあTさんは?

【学生】よく考えて、っていう感じ。

なるほど。じゃあHさんは?

【学生】健太から見たらお姉ちゃんは遊んでるように見えるかもしれないけど、大学では勉強してる。

Sさんは、何を大切にしてそう?

【学生】遊ぶ時は遊ぶけど、勉強はちゃんとやる。

じゃあHさんは?

【学生】色んなことやっていた方がやりたいことを選べるから割り算もやったほうがいい、みたいな。

なるほど。いろんな経験が大切だと。はい、ありがとうございます。10人いれば10通りの基準で健太くんに答えましたね。それって実は、自分がこれまでトランプを積み上げてきた中で、それぞれ大切にしてきたものなんじゃないかと思うんです。今、どうして逆にしてもらったかって言うと、それを他の人に発見してもらいたかったからです。

部活とか就活とか、色々なことの中で、ピラミッドのカードをうまく重ねることばっかり考えていると、自分が見えなくなってしまうことがあります。僕だったら「みんなと仲良くやっていく。」っていう基準で動いているのに、忙しかったり、成果を出さなきゃいけなかったりすると、カードを組み立てることばかり考えて、大切なことを見失っちゃう。何か上手くいかなくなっちゃうんだよね。

そんな時は立ち止まって、今まで自分がやってきたことを振り返ってみると、「自分ってこういうことを大切にしてきたのか。」って見えてくるんです。トランプを組み立てる自分がしっかりすることで、立てているものもしっかり見えるようになる。

そのために、ちょっと自分の中に健太くんをいれてみたらどうでしょう? 10歳の男の子が自分に色々聞いてくるわけです。「何で?どうして?」その質問に答えていく中で、色んなものが具体的になってきて、「私ってこういうことを大切にしていたんだ。」って気づけると思うんです。

さあ、最後のお題です。皆さん、地元でいちばん仲のいい友達を思い浮かべてみてください。健太が「どうしてその子と仲良くなったの?」「地元に帰ったらどんな風に過ごすの?」とか、色々聞いてきます。健太役の人、そんな風に隣の人にどんどんツッコんでください。OKですか?はい、じゃあスタート。

【学生】(会話中)

じゃあ健太役、入れ替えて。

【学生】(会話中)

初めての健太経験なので、いきなりはうまくいかないと思います。でも、自分の中の健太に色々質問をさせてみて、「何でそれが必要なの?」「どうしてしたいの?」「他じゃだめなの?」って、10才のワカランチンにうまく伝わるように答えられたら、他の人に伝えるのはけっこう簡単だと思うんです。

自分自身「実はこういうことがしかったんだ。」て気づいて、自分の大切にしている基準みたいなものも見えてくる。基準が分かれば、自分がやってきたこと、やりたいことが明確になる。それを、相手とイメージを共有できるように、映像的に伝えられれば、「伝える」を「伝わる」に変えることが出来るんじゃないかなと思うわけでございます。

さぁ、伝わったかしら(笑)?ご静聴ありがとうございました。何か質問はありますか?

【学生】ダンスでは、テーマをあからさまにやってしまうと演劇になっちゃうって言われることがあって、伝わりすぎると面白くないと言うか、「伝える」と「伝わる」のバランスが難しいんです。いいバランスを見つけるには、どうしたらいいですか?

僕は舞踊の専門じゃないけど、例えばシナリオでも、セリフで全部を言っちゃうと面白くないんです。「セリフで説明しない方がいい」ということもあります。例えば、登場人物の2人はすごく仲良しだとします。それをセリフで言わずに、肩にゴミが付いていたら何も言わずパッて取る、そのしぐさで間接的に表したりね。だから、直接表現と間接表現のバランスということなのかな?

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